京セラと長崎大学が海洋環境の「見える化」に取り組んでいる。両者はこのほど、IoT(モノのインターネット)センサーを備えた「スマートブイ」を共同開発した。水温や湿度、位置情報などのデータを集め、通信に必要な電力を潮流発電で賄う。海洋調査や漁業、養殖などに役立てる。2022年度にスマートブイの実用化を目指す。
海洋環境の調査用ブイは従来、1カ月程度で電池を交換しなければならず、運用面での負担が大きかった。両者は20年4月から長崎大の潮流発電技術と京セラのIoT技術を持ち寄り、スマートブイの共同研究を始めた。
長崎大は「SLTT」「VTT」と呼ぶ2種類の潮流発電用タービンを開発した。SLTTは潮の流れが速い海域での運用に適し、発電量を増やしやすい。一方、VTTはSLTTよりも小型で、潮の流れが遅い海域でも発電できる。
京セラはスマートブイの本体設計や各種センサー、衛星利用測位システム(GPS)通信装置を提供。データ管理用クラウドの構築や、漁業関係者向けのデータ閲覧アプリ開発も担う。
両者は4月19~27日の9日間、長崎県五島市の末津島沖でスマートブイ試作機の実証試験を行った。SLTTを搭載したスマートブイは、5分間隔でデータを送信。平均発電量は平均消費電力量を1.1ワット時上回る16.3ワット時を達成した。
両者は今月14日、京セラグループのICT研究拠点「長崎イノベーションラボ」(長崎市)で、報道向けにスマートブイの説明会を開いた。京セラ経営推進本部IoT事業開発部の能原隆氏は「海のデータを取得する上で、電源の確保が最大の課題だった。今後は様々な企業・団体と、スマートブイの使い道を議論したい」と話した。
長崎大と京セラはスマートブイの実用化に向けて、長期間の稼働を目的とした性能改善を進める。クロロフィルや塩分のセンサー、水中カメラなどの搭載も計画している。
スマートブイの試作機は市販の発電機を採用していた。長崎大は発電効率を高めるため、21年度中にスマートブイ専用の発電機を開発する方針だ。
電気新聞2021年7月16日
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