1日に開いたオンラインイベントに参加するファキンCEO(中央、左は西野副社長)

 日立ABBパワーグリッドの設立から1年が経過した。昨年7月の立ち上げから、製品、システムを日立製作所のIT基盤「ルマーダ」と融合し、データを利活用するデジタルサービスを相次いで投入してきた。日立は融合が一定程度進み、製品価値が高まったと判断。2日には、10月に社名を日立エナジーに変えると発表した。欧州重電大手「ABB」の名前を社名から外し、「日立」のブランド力で世界に打って出る。(湯川 努)

 日立は昨年7月1日にABBの送配電システム事業を約7400億円で買収し、日立ABBを立ち上げた。出資比率は日立が80.1%、ABBが19.9%。社名変更後も比率は変更しない。

 日立ABBの設立直後には技術融合チームを設け、ルマーダ適用の可能性や範囲を検討してきた。コロナ禍もあり、想定よりも人材、技術の交流は減ったが、渡航制限の緩和とともに協議は進展。スマートグリッド向け製品や、変電所の運用高度化システムを生み出している。

 ◇成長に自信

 立ち上げから1年で、順調に受注を積み重ねた。日立関係者は、ABBの名前が社名から外れても「『日立』のブランド力で十分世界に通用する」と自信を見せる。

 将来性について、東原敏昭会長も手応えをつかむ。1日に開いた日立ABB設立1周年の社内オンラインイベントで、「日立は日立エナジーを中心に、エネルギー分野の課題を解決する」と強調。日立ABBのクラウディオ・ファキン最高経営責任者(CEO)もデジタル技術の進化に期待を示した。

 収益面でも成長を見通す。6月の事業説明会では、西野壽一副社長(日立ABB会長)が日立のエネルギー部門の売上収益を2025年度に1兆7千億円まで高める方針を示した。21年度見通し比で27%増となる数字で、日立ABBの躍進を織り込んだ。

 ◇信頼性が鍵

 目標達成に向けては、地盤となる欧州に加え、アジア、中東、アフリカを重点市場に位置付ける。この中でも、日立があらためて注目するのは日本市場だ。

 日本政府が掲げた50年温室効果ガスの排出実質ゼロには、送電の効率化やエネルギー利用の高度化が欠かせない。日立は、もともとABBが保有していた高圧直流送電(HVDC)システムなどの製品、技術を売り込める市場と見込む。

 ただ、買収前のABBは日本市場での実績が一部民生向けにとどまっていた。日本の電力市場で売り込むには、品質を送配電事業者が求めるレベルに高める必要がある。日立関係者は「日立ABBをサポートする日立の技術力がますます重要になる」と指摘する。

 日本市場開拓の布石となるのは、今年3月に稼働した飛騨信濃周波数変換設備向けの製品だ。日立ABBは海外生産した高周波フィルターを納めた。安定稼働で実績ができれば、営業活動の追い風になる。

 先の関係者は、次の商機として国内の直流送電案件に注目する。洋上風力で生み出した電気をHVDCで陸地に届ける計画もある。競合他社は多いが「HVDCの実績は日立ABBが世界トップ。信頼性を証明できれば、競争で優位に立てる」との見方を示す。

電気新聞2021年7月5日