電気事業のような歴史ある国内産業では、一部を除けば自社の中核業務のために海外企業とのコミュニケーションや連携が要求されることはまれであり、経営層から若手社員に至るまでその能力は高くない。勃興する欧米クリーンテックベンチャーはじめ多くの企業との協働、海外市場の開拓が必要とされる中で、どのような人材育成が可能なのだろうか。

 関西電力では、新進エネルギーベンチャーとエネルギー大手両方を顧客とするコンサルティング会社である英国・エジンバラのDelta―ee社(以下デルタ社)と定期的に若手社員の訓練を兼ねたワークショップを開催しており、2020年2月に続いて、2021年1月の第2回は、コロナ禍下を受けてウェブで開催され、筆者もコーディネーターとして参加した。
 

大手エネルギー企業と新進企業のコラボへ向けたワークショップに参加

 
 デルタ社は破壊的イノベーションを含むエネルギービジネスの革新を「NEW ENERGY」と呼び、分散化、顧客セントリック、脱炭素がその基本潮流だ、という考えの下、大手エネルギー企業と新進ベンチャーのコラボレーションを推進している=図。実際に出資・連携を含めたオープンイノベーションのアクセラレーターとしても活動しており、欧州大手エネルギー会社との間でも同様のワークショップも行っている。

デルタ社が掲げるNEW ENERGYへのTRANSITION。電力量の販売ではなく、顧客との結びつきが価値源泉となり、エネルギー供給/サービスをどう届けるかが鍵となる

 2日間にわたるワークショップの内容は次のようなものである。まずデルタ社から欧州での最新動向の紹介があり、EV最適化ベンチャー、蓄電池をはじめとするサブスクリプションサービスであるSaaS(ストレージ・アズ・ア・サービス=蓄電池を設置し電気の調達最適化やΔkWの販売の収入を最大化しながら運用するもの)、EaaS(エネルギー・アズ・ア・サービス=電気・ガス・熱を統合化して提供するもの)の動きが紹介された。

 また、欧州独自の動きであるフレキシビリティーのビジネス動向では、アグリゲーターが大量FIT切れによってBRP(再生可能エネルギー市場統合プラットフォーム)に進化しつつある姿など、日本を先取りした姿が紹介された。特に再エネ増加とFIT切れ大量発生による再エネ市場統合は日本でも大きな論点になる可能性があり、風力大量導入による当日市場拡大が見られる欧州との違いを踏まえても、重要な示唆が得られるものであった。

 一方、関西電力側からは、このワークショップがデルタにとっても有益なものとなるよう、筆者が、日本政府の脱炭素2050への動き、エネ庁プラットフォーム研、再エネ大量導入小委員会をはじめとする日本のエネルギー・電力政策の動き国内クリーンテックベンチャーと大手エネルギー企業の連携の兆しなど、日本の制度改革と市場の動きについてアップデートした。

 続いて、各部門が取り組みつつある革新的新事業の紹介があり、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)を含めたベンチャー投資の取り組み、アフリカで展開しているオフグリッドベンチャー「WASSHA」、法人向けEVリース、家庭用の保険商品バンドリングによる顧客価値向上、配電DERプラットフォーム実証、タイでのDERと再エネによる顧客ソリューションなどを若手社員がプレゼンテーションした上で、デルタ社が知見を生かしたアドバイス、意見交換を行った。

 そうしたやりとりの中で、参加者はそれぞれの新事業企画に大きな示唆を得るとともに、プレゼンテーションを担当した8人の若手社員にとって、ディスカッション自体が得難い体験となった。
 

人材の裾野を拡大することが重要

 
 全体のダイレクターを務めた大川博己・執行役常務は「数カ月の準備だが、若手社員の努力と進歩は目覚ましかったと思う。当日のディスカッションも熱がこもったものだった。あとはしっかりと人材の裾野を広げ、いろいろな場にいる社員がそれぞれのイノベーションに挑戦できるようにすることが大切だ。特に営業担当をしているので、こうした中から次の付加価値ソリューションが出てくることを期待している」と語る。

 デルタ社ではこうした若い人材を「NEW ENERGY MASTER(エネルギービジネス革新の達人)」として終了証書を渡している。こうした人材の坩堝(るつぼ)ができてこそのイノベーションだ、ということは次回また述べたい。

電気新聞2021年3月22日