日本経団連は15日に発表した「グリーン成長の実現に向けた緊急提言」で、非化石証書やJ―クレジットといったクレジット取引をカーボンプライシング(炭素の価格付け)の有力な選択肢として評価した。一方、炭素税と排出量取引には慎重な姿勢を示した。経済産業省の有識者会合の議論を支持し、環境省の議論にくさびを打ち込んだ格好だ。

 提言の項目の一つにカーボンプライシングを取り上げた。二酸化炭素(CO2)排出に対するペナルティーでなく、企業の主体的な取り組みを促すインセンティブにすべきと強調。イノベーションの創出に向けた研究開発投資や設備投資を促す仕組みが必要とした。

 グローバル企業を中心にCO2の削減そのものを価値として認め、コストを経営に取り込む動きが広がっている。その際に企業が価格付けの参考にしているのがクレジット取引であり、J―クレジットなどを適切に設計すれば「有力なオプションとして、企業による主体的取り組みを補完する役割を果たし得る」と期待した。

 これに対し炭素税と排出量取引には「様々な課題が指摘される」とした。その上で政府に対し「炭素税や排出量取引制度の導入にとらわれることなく、多様な類型について、真に成長に資するカーボンプライシングを丁寧に検討していくべき」と注文した。

 経産省は有識者会合で炭素税について、中長期的に経済効果が生まれる可能性を否定しないが、短期的には負担増と指摘している。排出量取引制度は最適な排出量割り当てが困難とし、価格調整などで制度を柔軟に運営すると複雑化する上に削減効果も薄れるとした。

 環境省は有識者会合で炭素税と排出量取引制度で素案を示し、重点的に議論した。推進派の委員の中には、企業の自主的な取り組みで不足する排出削減分を規制で対応すべきという主張が多い。一方、経団連の椋田哲史専務理事は5月の会合で、これまでの議論の整理という事務局資料に対し「カーボンプライシングの重要性を強調するあまり、導入ありきになっている印象だ」と牽制。制度の問題点や慎重意見を資料の前に記すよう訴えていた。

電気新聞2021年6月17日