欧州市場では、FITでの買取期間が切れる太陽光発電(PV)を保有する家庭用需要家の蓄電池導入が拡大している。そこで、初期費用が高額な蓄電池の投資対効果を向上させるため、容量の一部をデマンド・サイド・フレキシビリティー(DSF)として活用する事業者が数多く出現している。英国のソーシャル・エナジー社は蓄電池をPVの自家消費比率向上に活用するだけでなく、アンシラリーサービス(FFR)および、卸市場や需給調整市場におけるアービトラージ取引にも活用している。その収益を顧客に還元することで、蓄電池の投資採算性を最大化するビジネスモデルとなっている。
 

FIT切れ太陽光所有者に蓄電池導入。投資効果最大化へ2つの方向性

 
 欧州市場において家庭用需要家向けの蓄電池の導入は拡大傾向にある。その要因は、PVに対するFIT買い取り価格の低減および廃止である。これにより、FIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)での買い取り期間が切れるPV保有の家庭用需要家に対して、蓄電池を導入し自家消費比率を拡大させることで電力コスト低減を訴求する事業者が数多く参入している。これらの事業者は、導入する蓄電池の投資対効果を最大化し、競合他社と差別化を図るため、2つの方向性で提供サービスの拡張を図っている=図1


 一つ目は、管理アセットの拡張である。蓄電池に加えて、暖房設備やEV充電器など一括で最適運用制御することで、PVの自家消費比率の最大化を支援している。二つ目は、DSFの活用による収益獲得である。自家消費最大化による需要家の電力コスト削減のみに蓄電池を活用するのではなく、一部を調整力(ΔkW)や電力調達コストの低減(kWh)に活用することで、新たな収益獲得を支援している。

 具体例として家庭用需要家の蓄電池をDSFとして活用しているデジタルベンチャー企業である英国のソーシャル・エナジー社を紹介する。
 

DSFによる収益の7割を顧客に還元

 
 英国のソーシャル・エナジー社は、PVを保有する家庭用需要家向けに蓄電池の販売、電力小売り、およびデジタル技術を活用した蓄電池の最適運用サービスをバンドリングにて提供するスタートアップ企業である。2013年に設立され、21年1月時点で約6千件に対してサービスを提供している=図2

 同社の最大の特徴は、独自に開発したAIプラットフォームによる需要家のハードウエア(PV+蓄電池)の統合制御およびVPP(Virtual Power Plant)構築である。同社は英国TSOであるナショナルグリッドESO社のFFR要件を満たす英国初のエネルギー供給事業者として、現在1000キロワットのFFR契約を獲得している。

 サービス面では1秒以内での電力需要とPV発電量の予測、および蓄電池の充放電の最適化を通じて、各顧客の自家消費比率の最適化を実現している。また、蓄電池の一部容量をDSFとして活用し、TSOにおけるFFRや、卸市場や需給調整市場でのアービトラージ取引として利用することで、新たな収益を獲得できる仕組みを構築している。その結果、DSFの活用により獲得した収益の約70%を顧客に還元するスキームにより、顧客はサービス利用前の電気料金から最大70%の削減を実現している。

 今後は、英国市場とオーストラリアに加えて、製品テストを終了している米国、ドイツ、イタリアにも進出する予定である。また、蓄電池だけでなく、ヒートポンプやEV充電器などのそのほかアセットも統合制御できるプラットフォームの拡張も目指しており、家庭用需要家アセットのDSFへの活用において注目すべきデジタルベンチャーの一社となっている。

 最終回となる次回は、家庭用需要家のアセットとしてEVバッテリーをDSFとして活用している事例を紹介する。

【用語解説】
◆FFR(Firm Frequency Response)
英国TSOであるナショナルグリッドESO社が提供するアンシラリーサービスの中で最も取引価格が高い。最低入札容量は1000キロワット。周波数応答には3つの応答速度があり、プロバイダーはこれらの1つのみ、または異なる応答時間の組み合わせにて提供可能。
 一次応答:10秒以内の応答および20秒間継続
 二次応答:30秒以内の応答および30分間継続
 高周波数応答:10秒以内の応答および無期限の継続

電気新聞2021年3月1日