現在、欧州主要市場においてデマンド・サイド・フレキシビリティー(DSF)として活用されている家庭用需要家アセットは、暖房設備と電気温水器が圧倒的に多いが、蓄電池や電気自動車(EV)充電器も増加している。今回は、家庭用需要家の暖房設備やEV充電器をDSFとして活用しているノルウェー・ティバー社を紹介する。同社は「市場連動型料金メニュー」と独自開発した人工知能(AI)プラットフォームにより、顧客の暖房設備の最適運転やEVスマート充電の最適化を支援している。
 

欧州の家庭用DSF、7割がフランス

 
 英国のエネルギー専門コンサルティング会社であるデルタE.E社によると、現在、欧州主要市場においてDSFとして商業ベースで活用されている家庭用需要家アセットは約109万台、総容量で約130万キロワットである。

 DSFとして活用されている家庭用需要家アセットは主に暖房設備、電気温水器、蓄電池、EV充電器であるが、現時点でフランスのボルタリス社(2006年設立)が集約している暖房設備(10万台、90万キロワット)は、欧州における家庭用需要家アセット利用によるDSF容量全体(130万キロワット)の約70%を占めている。

 また、北欧(スウェーデン、ノルウェー)やオランダではEV普及拡大に伴い、EV充電器によるDSFの活用が増加している。さらにドイツでは太陽光発電と蓄電池による自家消費型モデルが拡大しており、導入した蓄電池の一部容量をDSFとして活用する事例も増加している=図1。

 家庭用需要家アセットの暖房設備やEV充電器をDSFとして活用しているデジタルベンチャー企業である、ノルウェーのティバー社を紹介する。
 

市場価格高騰時のリスクも最小化

 
 同社は、ノルウェーにて16年に設立された電力業界におけるテクノロジー企業である。自社のデータ・サイエンティストが開発したAIプラットフォームを活用し、電力小売とデジタル技術をバンドリングした新たなサービスを提供している。現在、ノルウェーとスウェーデンで約4万件の家庭用顧客を保有している。

 同社のビジネスモデルの特徴は、実質マージンゼロの「市場連動型料金メニュー」とデジタル技術の統合によるDSFの創出である。


 家庭用顧客に対して電力卸市場価格をパススルーで提供するメニューにて電力を供給するとともに、AIを活用して卸市場の価格シグナルに対し、顧客別に最適な使用パターンでの運転管理を支援している。つまり同社ではDSFは調整力(ΔkW)として活用しておらず、「電力料金型DR」を活用し、電力量(kWh)として活用するビジネスモデルとなっている=図2。

 顧客はサブスクリプション契約により1時間ごとに変動する卸市場に常時アクセスすることが可能となる。同社が提供するアプリを使用することで、日々の1時間ごとの卸市場価格および電源タイプを正確に把握できる。さらに同社が販売するスマートホーム機器(スマートサーモスタット、スマートEV充電器など)とアプリを連携させることで、電力市場価格に応じた設備の運転スケジュール設定が可能となり、AIを活用した最適な暖房設備の運転やEVスマート充電が可能となる。

 北欧では電気暖房やEVが普及し家庭用需要家における電力需要が多い。そのため家庭用需要家にとって、市場連動料金メニューは安価な卸市場価格を活用できるメリットがある一方で、価格高騰リスクが懸念される。同社のサービスは卸市場価格高騰時のリスクを自動的に最小化することができるため、顧客に対して新たな付加価値を提供するサービスとなっている。

 次回は、家庭用需要家アセットとして蓄電池を活用しているDSFプロバイダーの事例を紹介する。

【用語解説】
◆英国デルタE.E社(Delta Energy & Environment) 

英国エディンバラを拠点とするエネルギー専門のコンサルティング会社。フレキシビリティー、蓄電池、EV、分散型電源、デジタル、ローカルエネルギーシステムなどの「ニュー・エネルギー」領域における市場動向、プレーヤー分析に基づくデータベースサービスおよびコンサルティングサービスを提供。現在、日本市場においてアビームコンサルティングと協業している。

電気新聞2021年2月22日