脱炭素社会実現の鍵としてモビリティーの電動化が挙げられるが、電力エネルギー分野との連携やエネルギー×モビリティーのプラットフォーム構築など、eモビリティーの普及拡大に向けた一層の取り組みが必要な局面を迎えている。eモビリティーへの転換のシナリオを描き、先駆的な研究開発や社会実装を進めるためには、産学官共創も重要となる。最終回となる第4回では、2020年4月に大阪大学に設置された「モビリティシステム共同研究講座」の取り組みを紹介する。
 

デジタルツインでモデル構築

 

 将来実現されるであろうスマートシティーでは、eバイク、eカー、eトラック、eバスなど多彩なeモビリティーが大都市、中都市、町村、コミュニティーで活躍する。このため、本講座では、eモビリティーが導入される地域を想定して、移動の利便性向上、再生可能エネルギーの有効活用、充電インフラの最適設計などを、事業者や自治体関係者、そしてeモビリティーを利用する地域の人々と共有できるよう、デジタルツインの研究を行っている。

 スマートシティーの構成については、図1のように、都市レイヤー、交通レイヤー、電力レイヤーという、3層の地域・都市基盤モデルを構築している。

 都市レイヤーでは携帯電話や車両の位置情報のビッグデータを活用し、人・モノ・車両の滞在・移動の需要をメッシュ・マップに表現する。気象データを利用すれば再生可能エネルギー賦存量を、スマートメータデータを利用すれば電力需要も推定できる。

 交通レイヤーでは都市レイヤーの地形や道路の情報とリンクして交通需要に応じた交通フローを推定し、道路や交差点などのボトルネックによる交通混雑・渋滞を解析する。

 電力レイヤーでは都市レイヤーの充電スタンドの情報とリンクして充電や放電による電力フローを推定し、電力ネットワークの特性に従った電力品質の変化や再生可能エネルギーとの協調具合を解析する。
 

大学で様々なモビリティーを使ってみる

 
 このようにeモビリティーが普及するスマートシティーの交通運用者(交通TSO)や電力運用者(電力TSO、DSO)まで評価することが、この研究の特徴である。多彩なeモビリティーの受容性や有効性を見極めるために、身近な大学キャンパスから“やってみなはれ”を実践する活動も始めている=図2。

 第1弾はクリーンかつ静粛で小回りも利くことから、キャンパス内の移動の利便性向上が期待できるグリーン・スモール・スローモビリティーである。20年11月末から期間限定でギグワーク&デリバリーのシェアリングを実証。情報管理や充電のしやすさが重要と考え、スマートフォンによる簡易なフリート管理やワイヤレス給電を援用した。

 第2弾はエネルギー&モビリティー・シェアリングである。通勤にも利用できるシティーコミューターを教職員でシェアリングし、モビリティーとしての利便性とキャンパスのエネルギーマネジメントとの両立を図る実証を21年度中に開始する。

 第3弾として、eバスとeトラックの活用も企画中だ。多彩なeモビリティーが活躍するスマートキャンパスの姿を示していきたい。

 

産学官共創目指す

 
 以上のようにサイバー(デジタルツイン)とフィジカル(キャンパス実証)の両輪の研究を進めながら、モビリティー×エネルギーの新しい活用方法やデータ連携の具体的な形、さらにはプラットフォームやアークテクチャについて構想し、産学官共創のスマートシティー・コミュニティー実証に昇華させていくことを、共同研究講座の5年間の目標としている。

【用語解説】
◆デジタルツイン
時空間情報など、計測収集された情報を基に、都市やインフラの姿を双子のように仮想空間に再現する。

◆ギグワーク
個々のライフスタイルに合わせて短時間でも隙間時間に働く働き方のこと。食品のデリバリーではUber Eatsなどがある。

◆TSO、DSO 
ここではTraffic System OperatorあるいはTransmission, Distribution System Operatorを示す。交通と電力それぞれの需給、混雑などを監視し、適切に運用制御するシステム管理者。

電気新聞2021年2月8日

(全4回)