化石燃料から大気中へ排出される二酸化炭素(CO2)を抑制するカーボンリサイクルは、CO2を資源として捉えるものである。中国電力では、化粧品や健康食品などの原料となる高付加価値品への利用を目指した「Gas―to―Lipidsバイオプロセスの開発」に、広島大学と共同で取り組んでいる。具体的には、微生物を利用した二段階発酵により油脂を生産するもので、油脂にはカロテノイドや不飽和脂肪酸などの有用な物質が含まれ、化粧品や健康食品などの原料として活用が期待される。
 

IGCCで分離したCO2を利用し、広島大学と共同で開発

 
 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募した、広島県の大崎上島を研究拠点とするカーボンリサイクル技術の技術開発事業「CO2有効利用拠点における技術開発」において、中国電力が広島大学と共同で提案した「ガス・ツー・リピッズバイオプロセスの開発」が、今年8月に採択された。

 大崎上島では、中国電力と電源開発との共同出資により設立された大崎クールジェンが、NEDOの助成事業として、CO2分離回収型酸素吹IGCC(石炭ガス化複合発電)の実証事業を進めている。この設備のCO2分離・回収試験により得られる高純度のCO2を用いて、カーボンリサイクルの基本技術の開発および実証試験などを進めることが、この公募のポイントである。

 経済産業省が2019年9月に発表した、「カーボンリサイクル3Cイニシアティブ」においても、大崎上島を実証研究の拠点として整備することが明記されている。
 

二段階発酵で、炭化水素、高度不飽和脂肪酸など製造

 

 「ガス・ツー・リピッズバイオプロセス」は、二種類の微生物による二段階発酵により、石炭火力発電所などから排出されるCO2(ガス)を用いて、化粧品や健康食品などの原料となる付加価値の高い脂質(リピッズ)を生産する技術である。今後、2023年度までの予定で、技術の確立や製造プロセスの構築などに取り組む計画である。経済産業省が策定する「カーボンリサイクル技術ロードマップ」においても、CO2から高付加価値品を製造する技術は、2030年頃に普及する技術として期待されている。

 本プロジェクトのポイントは、酢酸生成菌と油糧微生物による二段階発酵を一貫製造プロセスで行い、CO2から最終的に高付加価値品を製造することにある。

 第一段発酵では、酢酸生成菌であるホモ酢酸菌アセトバクテリウムの発酵機能を利用し、CO2を酢酸の形で固定化する。この際に水素が必要となるが、将来的にこの水素は再生可能エネルギーからの製造を想定している。

 第二段発酵では、油糧微生物であるオーランチオキトリウムの培養槽に、第一段発酵で得られた酢酸を含む培養液を投入し、これを栄養源として脂質を生成する。生成された脂質には、カロテノイドを含む炭化水素、長鎖飽和脂肪酸および高度不飽和脂肪酸などの有用な物質が含まれる。

 オーランチオキトリウムが酢酸を食料とすることは、あまり知られていなかったが、NEDOの公募前から研究室レベルでの試験を行っており、経済産業省が2020年1月に発表した「カーボンリサイクル技術事例集」でも紹介された。大崎上島ではこれをスケールアップした設備で、試験を行うものである。

 この技術によって生成される脂質の一種カロテノイドには、例えば抗酸化作用のあるアスタキサンチンがあり、化粧品や健康食品の材料として活用の見込みがある。高度不飽和脂肪酸の中には、例えば青魚にも含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)があり、健康食品の材料として活用の見込みがある。長鎖飽和脂肪酸は燃料の原料となるが、高付加価値品ではないことから、今後の課題である。

 この一貫製造プロセスは光合成によるものではないため、太陽エネルギーの変動に左右されず、広い敷地も必要としないメリットがある。半面、水素を必要とするデメリットがあるが、「カーボンリサイクル技術ロードマップ」では、中長期には水素の低コストでの利用が前提となっており、将来的には、生産された脂質は化学品や燃料などの幅広い製品の原料として、活用できる可能性がある。

【用語解説】
◆オーランチオキトリウム
油糧微生物の一種。光合成をしない従属栄養型の微生物で、未利用バイオマスなどを栄養源として、石油の代替燃料を生産できるものと注目を集めていた。本プロジェクトでは、酢酸生成菌による酢酸を栄養源として、高付加価値品であるカロテノイドや不飽和脂肪酸などの生産を主眼としている。

電気新聞2020年12月21日