◆行動科学の知見生かす顧客エンゲージメント
◇省エネ提案で離脱1割減
1990年代に電力の小売り自由化が始まったニュージーランドでは年間2~3割のスイッチングが起こるほど顧客の争奪戦が激しい。同国のエネルギー事業者マーキュリーエナジーはオーパワーを導入。スマートメーター(次世代電力量計)から得られるデータを活用し顧客に1週間のエネルギー使用量の推移を分かりやすく見せるレポートを発信している。

レポートから同社の公式サイトに誘導し使用状況に基づく省エネアドバイスを送ることで顧客が能動的に省エネに取り組むようになり、電気代を削減している。オラクルによると、オーパワー導入前と比べてマーキュリーエナジーの顧客離脱率は10%低減。顧客満足度は30%向上した。
米国のピュージェットサウンドエナジーは顧客の電気の使用分析状況をコールセンターの担当者にも開放している。「電気代が高い」と問い合わせてきた顧客に対しオペレーターは使用分析データを見ながら円滑な対応を実現。顧客1人当たりの平均応対時間を40.1秒短縮した。
米国ニューヨーク州のコン・エジソンは省エネの余地がある顧客に絞ってセントラル空調のサーモスタット(温度調節装置)を提案。オーパワー導入前と比べサーモスタットの販売数を61%増やした。同社が運営するEC(電子商取引)サイトでも省エネ家電を中心に7万品目の売り上げを達成している。
◇究極のDR対応拡充へ

オーパワーは行動経済学の手法「ナッジ」を採用した電力需要のピークシフトや省エネルギー化を実現している。北米で行ったデマンドレスポンス(DR)実証では参加した家庭に対し近隣住宅の使用量も通知。ある種の競争心を刺激した上で省エネアドバイスや環境への影響を伝え、ピークシフトを促した。その結果、インセンティブがなくても電力のピーク使用量を3%削減。年間のエネルギー使用量も0.2~0.4%抑えることに成功した。
ピークシフトの取り組みでは他にも「行動ロードシェイピング」を提供している。行動ロードシェイピングは時間帯別料金を選ぶ顧客向けに毎週配信するレポートで、ピーク時間帯の料金単価が高いことを事前に見せて料金が安い時間帯での電気使用につなげる。
北米のエネルギー事業者4社が2019年から、こうしたソリューションを運用している。オラクルは将来的にエネルギー事業者やアグリゲーターが直接、家庭内の電化機器の出力を調整する「究極のDR」にも対応できるようにシステムを拡充する考えだ。
◆「ロードカーブ分析」実証/最適料金プラン提示へ
オラクルはスマートメーター(次世代電力量計)を活用した「ロードカーブ分析」の実証に取り組んでいる。電力使用の推移を複数のパターンにセグメント化した上で需要家が、どのセグメントに当てはまるかを解析。パターンに合致した最適な料金プランを提示することで時間帯別料金プランの最適化につなげている。
例えば電気を多く使う時間帯が昼間であれば太陽光発電の自家消費を提案。プランごとの料金試算や省エネ行動を加味した上で最適な料金プランを示すこともできる。北米西海岸のあるエネルギー事業者では従来に比べて40倍の顧客が料金プランを変更したという。
オーパワーとスマートメーターを組み合わせれば各家庭にある家電製品の電気使用量も検知できる。こうした情報は省エネ家電への買い換えや太陽光発電パネルの設置を促す広告提示に役立てている。