関西電力営業本部地域開発グループでは、新しいまち(スマートシティー)づくりに貢献できる新たな事業分野の開拓を検討している。第1回では、今年2月の万博記念公園での実証を通じてスマートシティー実装に必要となるポイント(誰のためのスマートシティー実装か、スピード感を持って継続できる活動か、多様性のあるまちづくりになっているかなど)について私見を述べた。今回は、10月末から予定されている栃木県宇都宮市での実証を通じて、Maasなどとの関係を含めさらに議論を深めていきたい。
 

宇都宮での観光型MaaS実証

 
 宇都宮市では、10月31日から1月31日までの3カ月間、「スマートシティの実現に向けた大谷地域における観光交通社会実験」が実施される(多様なモビリティーの運行については11月6日までの7日間で実施)。多様なモビリティーの運行による自家用車がなくても観光が楽しめる体制づくりや、MaaSアプリによる快適な移動と魅力的な観光の両立に取り組む、観光型MaaS構築に向けた一大プロジェクトである。

 スマートシティーもMaaSも、概念としてかなりの広がりがあり、重なる部分も多い。私は、MaaSを交通弱者といった地域課題を解決するスマートシティー実現のための手段として捉えている。また、2つの概念ともに、各種サービスをデジタル技術でシームレスに統合し、付加価値(経済性・利便性・快適性)を高めるという共通点を持っている。今回議論する観光型MaaSも、郊外住宅地とは無関係と考えるのは早計で、住民も観光客も同時に継続して付加価値を高める取り組みこそ、スマートシティーには必要であると考えている。

 それでは、宇都宮の社会実験の中で、当社が関与している多様なモビリティーの運行という部分で議論を進めていく。スマートシティー(手段としてのMaaS)を実現するにはまずは多様なモビリティーの提供が必要不可欠である。移動の目的ごと、移動者のニーズごとに複数の選択肢がないと、自家用車によるドアツードアの移動手段と比較し、経済的にはなったとしても利便性が高いとはいえず、結局、MaaSが選択されることは難しいからである。

 特に公共交通と目的地を結ぶラストワンマイルと呼ばれる領域は、まだまだ選択肢が十分といえない。自転車やバイクといった従来からある移動手段はもちろん、グリーンスローモビリティーなどの新しい移動手段も含め、多様なモビリティーを確保することが大前提ということだ。

 今回、当社からは4人乗りのグリーンスローモビリティーとして「ハイカート」を2台、パーソナルモビリティーとして電動車いすの「RODEM」を5台提供する。この中には、前回紹介した自動充電技術であるワイヤレス充電に対応させた特別車両も含まれている。このほか、バスやレンタサイクルなど当社以外からもモビリティーの提供があり、見応えのある社会実験になろう。
 

時速5kmでディナーを楽しむという娯楽

 
 さて、移動手段の多様性の基準もいろいろあるが、最近私が注目しているのが速度という基準。時速3キロメートルほどの歩く速度、時速12キロメートルほどの自転車の速度、そして時速20キロメートル以上の自動車の速度。実は全く違う体験ができる。車両の形状も加味すれば、同じ場所でも、移動速度によって全く違う風景、風の感じ方ができ、観光価値・居住価値を高めることが可能となる。

 当社グループ会社のゲキダンイイノは、最近、type―Rという全く新しいモビリティー体験ができる車両を開発し、サービスを開始した。これは、時速5キロメートル以下で走るオープンスタイルの移動車両だ。早速、宇都宮市の社会実験に時期を合わせ(社会実験とは別の取り組み)、大谷地域の観光施設を貸し切り、極上のディナーとともに全く新しい休息体験を提供する。

 スマートシティー実現には、こうした娯楽性も重要との認識の下、観光施設の魅力向上にも取り組んでいる。

【用語解説】
◆MaaS(Mobility as a Service)
出発地から目的地までの移動ニーズに対して最適な移動手段をシームレスに一つのアプリで提供するなど、移動を単なる手段としてではなく、利用者にとっての一元的なサービスとして捉える概念(出典:国土交通省)。

◆グリーンスローモビリティー 
時速20キロメートル未満で公道を走る事が可能な4人乗り以上の電動パブリックモビリティー(出典:国土交通省)。

◆iino(イイノ) 
時速5キロメートル以下の特性を活用し、娯楽や快適性の価値を提供することで、走行する場所の魅力向上に資する自動運転モビリティー。大谷地域での取り組み詳細はゲキダンイイノのHPで。https://www.event.gekidaniino.co.jp/

電気新聞2020年10月26日