「わんぱくらんど」内の太陽光パネル設置予定地

 神奈川県西部にある小田原市。ここを舞台に、地域マイクログリッドの新たな実証が始まろうとしている。担い手は、京セラやスタートアップ企業などが組んだコンソーシアム。分散型エネルギー資源を地域内で有効活用するための新しいアイデアを試す。再生可能エネルギー拡大の試金石になりそうだ。

 京セラとA.L.I.テクノロジーズ(東京都港区、片野大輔社長)、REXEV(レクシブ、東京都千代田区、渡部健社長)の3社は9月、経済産業省が公募した「地域マイクログリッド構築事業」に採択された。新電力の湘南電力と小田原市を加えた5者でコンソーシアムを形成。2022年2月までの1年半、小田原市で実証を展開する。

 実証では、太陽光パネルや大型蓄電池、電気自動車(EV)などを一体的に制御し、マイクログリッド内の需給バランスを調整する。非常時には系統から切り離し、自律的に電力供給できる仕組みを目指す。マイクログリッドの考え方自体は目新しいものではないが、実現する手法で新規性を打ち出した。その一つが、太陽光パネルの発電電力を地域内で分け合う仕組みだ。
 
 ◇所有比で案分
 
 ESG(環境、社会、企業統治)投資が重視される中、多くの企業が経営計画に環境への配慮を掲げ、ブランドイメージ向上に取り組んでいる。再生可能エネルギーを取り入れた電気料金メニューを選ぶ企業も増えてきた。しかし、環境配慮型メニューは割高になるのが一般的。太陽光発電の自家消費や自己託送をするにも、設置する場所やコスト負担が障害になる。

 今回実証するのは、複数企業が太陽光パネルの区画を仮想的に分けて所有し、発電電力を自己託送する「再エネ共有モデル」。物理的に区画を分ける従来の方法では、パネルの汚れなどで区画ごとに発電量に差が出るほか、所有者ごとにメーターを取り付ける必要があった。課題克服の鍵を握るのは、ブロックチェーン(分散型台帳)技術。太陽光パネルの所有比率に応じて発電電力を案分し、各所有者に自己託送することが可能になる。

 仮に、A社とB社が太陽光パネルを7対3の割合で仮想的に区画を分けたとする。ブロックチェーン上で「トークン」と呼ばれるデジタル権利証をそれぞれに発行することで、A社は発電量の7割、B社は3割を使える権利を得る。トークンは所有者間で簡単に移動でき、例えば「休日だけA社とB社の所有比率を3対7に変えたい」といったニーズにも対応する。ブロックチェーン上で行われた全ての取引は、参加者全員が持つ「台帳」に記録されるため改ざんしにくく、安全な権利移転が可能だ。
 
 ◇災害時も想定
 
 実証用の太陽光パネル(50キロワット)は、小田原市内の公園「わんぱくらんど」に設置する。災害時など系統から切り離された場合を想定し、わんぱくらんどへ優先的に給電する実証も行う。実用段階では病院や避難所など、給電の優先順位も検討課題になりそうだ。

 同様の実証は企業だけでなく、家庭向けでも予定する。自宅から離れた場所にある太陽光パネルを多数の世帯が仮想的に所有する仕組み。既に米国などでは、太陽光パネルの発電量と自宅の消費電力量を相殺できる「ネットメータリング」という制度に基づいて普及が進んでいる。太陽光パネルの初期費用を多数の需要家が分担するため、小売電気事業者にとっては、再生可能エネへの投資促進や顧客の囲い込みにつながる利点がある。

電気新聞2020年12月11日

※連載「共創・地域グリッド 小田原の新モデル」は全3回です。続きは電気新聞のバックナンバーでお読みください。