電気という産業や暮らしに欠かせないエネルギーを供給してきた関西電力は、従来から様々な形でまちづくりに貢献してきた。現在、営業本部地域開発グループでは、エネルギーに限らず、交通や物流、防災・防犯、健康増進といった分野で、新しいまち(スマートシティー)づくりに貢献できる新たな事業分野の開拓を検討している。スマートシティー実現に必要となるポイントは何なのか、具体的な取り組みを紹介しながら、一緒に考えていきたい。
大阪万博見据えた実験。誰のためのサービスかを主眼に
2020年2月、関西電力では、万博記念公園で電動カートを使った実証実験を行った。電動カートの実証実験は全国で実施されているが、この実証では、万博記念公園をスマートシティーの街区に見立て、電動カート、ワイヤレス充電、オンデマンド配車アプリ、位置情報(OTTADE!)、位置情報のマーケティング利活用など、様々な技術・サービスを統合して行った点が特徴だ。これは2025年の大阪万博を見据えたモビリティー実験でもある。
まず意識したのが、誰のためのサービスかという視点。どうしても技術偏重になりやすいスマートシティーだが、本来は、その街区にいる住民や企業、管理者である行政にとって、より効率的で質の高い活動に発展できるかが重要だ。この実証でも、来園者に楽しく移動してもらうことはもちろん、公園管理者にとっても収集したデジタルデータが今後のマーケティング戦略に活用できるように配慮した。
さらに早期実装を意識し、現在の最新技術をうまく組み合わせて目的を実現するよう企画した。自動運転はまだまだ時間がかかるため今回は断念。ただし自動運転時代に必要となる自動充電技術であるワイヤレス充電は実装した。街区のコミュニティーを持続させるため、風景を楽しみ、会話がしやすい低速の電動カートを採用した。リユースのモーターやバッテリーを活用するなど価格抑制にも取り組んだ。広大な万博記念公園では、いつ、どこで移動ニーズが発生するか分からない。そこで、来場者がどこからでも電動カートを呼び出せるよう、オンデマンド型の配車システムアプリを採用。さらに見守りサービス「OTTADE!」を利用し、希望者にビーコンを貸与。園内における子供の見守りや高齢者の居場所特定に活用してもらった。
地域の魅力を明確にしたまちづくりが重要
この実証は1週間実施したが、その結果、明らかになったことをまとめてみよう。まず、来園者に対し、アプリのインストールをしてもらったり、ビーコンを貸与することに、手間がかかる点が課題となった。ここは利用者が限定される郊外住宅地とは異なる点だ。また、ワイヤレス充電とリユースにこだわったため、結局、電動カートが1台しか用意できず、オンデマンド配車の効果を十分発揮することができなかった。
一方、評価できる点としては、社会実装をイメージして実証実験を行ったため、スマートシティー関連企業、行政など多様な見学者が、それぞれの問題意識で具体的な将来像をイメージする助けとなり、以後、活発な議論が展開されたことだ。議論の中で、共有する課題を水平展開するだけでなく、それぞれの地域の魅力や特徴を明確にした多様性のあるまちづくりをどう進めていくのかが、非常に重要だということに気付かされた。
こうしたモビリティーへの取り組みは、交通弱者、買い物難民などの地域課題解決に向け、早急な対応が必要であると同時に、地域密着型のサービスとして地域に入り込み、継続して活動していく必要もある。電力会社が大いに力を発揮できる分野であると確信した。
【用語解説】
◆ワイヤレス充電システム
電動モビリティーを駐車するだけで、非接触で自動的に充電を開始するため、有線充電に比べて利便性および安全性を大幅に高めることが可能(ダイヘン提供)。
◆オンデマンド配車アプリ
来園者がオンデマンドで電動カートを呼び出し、目的地までの移動手段として活用できるアプリ。カスタマイズしやすいシステムで地域特性に応じた活用が期待できる(TIS提供)。
◆位置情報サービス OTTADE!
一定地域内に居住する小学生にビーコンを持たせ、その位置情報を保護者が専用アプリなど等で確認、見守りに利用するシステム。非常に安価で構築可能(関西電力送配電提供)。
電気新聞2020年10月19日