今年11月からFIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)による買い取り期間が順次切れる住宅用太陽光発電の余剰電力買い取りメニューが相次ぎ公表されている。ただ、余剰電力買い取りは糸口にすぎず、家庭に置いた蓄電池で需要側の電力制御・融通サービスまで手掛けたい新電力と、蓄電池によって送配電網を流れる電力量(系統電力)を減らしたくない旧一般電気事業者の攻防に発展するとみる識者もいる。蓄電池の展開で強みを出せるかは、家庭への販売チャンネルの有無も関係しそうだ。

 買い取り単価は新電力の旧昭和シェル石油(現出光昭和シェル)が2月末にいち早く示した1キロワット時当たり7~8円台が指標になった感がある。4月末に公表したみなし小売電気事業者(旧一般電気事業者の小売部門)5者も同じ水準だ。ただ、JXTGエネルギーが5者エリアでより高い10円を設定するなど、FIT切れの大部分を顧客に持つみなし小売電気事業者からの奪取意識をあらわにする大手新電力も出てきた。
 
 ◇「BTM」に照準
 
 7~10円の単価水準は「国の太陽光の発電コスト目標である7円を下限に、日本卸電力取引所(JEPX)の年平均スポット価格をにらみつつ、マーケティングを重ねて決めたのではないか」。関連ビジネスに詳しいオプテージの石橋和幸・ビジネスコンサルティング部グローバル&ストラテジーチームマネージャーはこう見立てる。新電力にとっては、年平均のスポット価格とほぼ同等か安い値段だ。夏冬の高騰リスクを回避し、固定価格で調達できるうまみもある。

 ただ、余剰電力買い取りは「ビジネスの入り口にすぎない」と石橋氏は指摘する。電力小売供給や、電力量計から宅内側の「ビハインド・ザ・メーター(BTM)」と呼ぶ事業領域もセットで展開したい新電力と、そうはさせたくない旧一般電気事業者のつばぜり合いになるとの見立てだ。新電力側がBTM事業の核とするのは蓄電池。VPP(仮想発電所)リソースへの活用も見据える。蓄電池設置をメニューに加えている新電力も、既にちらほらとみられる。

 とはいえ、経済産業省によると家庭用蓄電池の実績価格は容量1キロワット時当たり約22万円。主流の容量6キロワット時では130万円を超え、自家消費による電気料金削減額では投資回収が難しい。20年の目標価格約9万円まで下がっても、回収には15年ほどかかるという。

 このため、今後は小売電気事業者が蓄電池の設置費用を負担し、自家消費による電気料金削減分の中に織り込む形で費用を回収する事業モデルが日本で展開される可能性があると石橋氏はみる。海外では実証中だが、蓄電池の資産と制御権を事業者が持つため、需要側リソースとして活用しやすい。蓄電池を設置しても、家庭にメリット感が出るようにすることがポイントだ。
 
 ◇大手は仮想蓄電
 
 蓄電池の展開で強みを出すには、その企業が家庭までのラストワンマイルを持っているかも鍵だ。太陽光発電の施工・保守会社などを抱えている企業が強いという声もある。

 一方で、自社エリアの家庭に蓄電池がたくさん置かれると、一般送配電事業者は痛手を被る。系統電力需要が減り、託送収入が減少しかねないからだ。送配電部門が来年4月に法的分離した後も、電気事業全体でこういった事態に陥るのを避けるためか、現状では中国以外のみなし小売電気事業者4者は余剰電力買い取りメニューの中で「仮想蓄電」と呼ぶサービスを前面に打ち出している。

 同サービスの概要まで示したのは中部、北陸、四国。余剰電力を預かり、蓄電池のように他の時間帯に使ったとみなして電気料金から使用分を割り引いたり買い取ったりする内容だが、実質は通常の買い取り単価にプレミアムを付けたのと同じ。顧客ロイヤルティーが高いオール電化世帯の買い取り単価はより高額にして囲い込む戦略だ。また、関西は余剰電力で昼間にエコキュートのお湯を沸かすメニューも用意した。電力中央研究所社会経済研究所の高橋雅仁上席研究員は、余剰電力を蓄電池にためるよりもコスト効率的だと分析する。

 残りのみなし小売電気事業者は6月末までにメニューを公表するほか、公表済みの事業者もメニューの詳細提示や追加・拡充へと動く可能性がある。だが、現状は事業者の買い取り単価に大きな差がないため、11月以降の市場は「当面は静かなまま」とみる向きもある。

◆キーワード「FIT切れ住宅太陽光」
 2009年に出力10キロワット未満の住宅用太陽光の余剰電力を固定価格で10年間買い取る制度(当初は1キロワット時当たり48円)が始まり、今年11月から買い取り期間を終える家庭が現れる。その数は年末までに約53万件・200万キロワット、23年までに約165万件・670万キロワットに達する。国はビジネス拡大の契機とも捉え、自家消費拡大や継続買い取りの仕組みを検討してきた。

電気新聞2019年5月14日