スペシャル福島

 東日本大震災から7年あまり。東京電力福島第一原子力発電所事故の風評被害にさらされた福島県の食材の魅力や品質を再評価する動きが広がっている。様々な苦労を乗り越えて安全で品質の高い食材をつくり続けてきた生産者、そうした食材の魅力にほれ込んで提供するユーザーの地道な取り組みが背景にある。2月に新組織を立ち上げ、風評払拭対策を強化する東京電力ホールディングス(HD)の取り組みも合わせて、福島県産食材の魅力を紹介する。

◇天栄米、国際大会で9年連続金賞/手間惜しまず有機栽培に挑戦

研究会創設時から天栄米の生産に携わってきた大須賀副会長(左)と小沼副会長
研究会創設時から天栄米の生産に携わってきた大須賀副会長(左)と小沼副会長

 JR新白河駅から車で約30分。福島県中通り南部に「世界一おいしい米」の産地として知られる場所がある。豊かな自然と水の恵みを生かしつつ、化学肥料を使わないこだわりの手法で、米づくりに取り組む天栄村だ。

 米はいわずと知れた日本人の主食だ。あまたの生産地が品質や味を競っている。その中で村の名を冠した天栄米が世界一と呼ばれるのは、米の味を審査する国内最大の催し「米・食味分析鑑定コンクール国際大会」で、9年連続の金賞受賞という大記録を達成したからだ。

 天栄米の生産が始まったのは今から10年前の2008年にさかのぼる。当時、輸入米の増加などにより、米価が下落することへの懸念が高まり、村の米農家が生き残りをかけて「おいしい米づくり」の在り方を模索し始めた。

 そうした機運の高まりを受けて、07年11月に村独自のコンクールが開かれた。参加した97点から選抜した米を全国コンクールに出展したところ、最上位に当たる特別優秀賞を受賞。さらなる高みを目指すため、翌年には日本一の米づくりを目指す「天栄米栽培研究会」が発足した。

田んぼに雑草よけの黒い紙を敷き詰め田植えを行う。それでも無農薬栽培の草取りは重労働だ
田んぼに雑草よけの黒い紙を敷き詰め田植えを行う。それでも無農薬栽培の草取りは重労働だ

 現在流通している天栄米には「漢方環境農法天栄米」「GPR特別栽培天栄米」「特別栽培天栄米」の3種類ある。このうち研究会が看板娘ならぬ看板米と位置付けるのが、漢方環境農法天栄米だ。

 最大の特徴は田んぼの土壌改良材として、漢方薬を煎じた滓(かす)を使う点だ。農薬や化学肥料に頼らない有機栽培で、手間暇を惜しまず、米を育てている。そう言葉にするのは簡単だが、当事者たちにとっては大きな挑戦だった。

 研究会発足時からのメンバー、大須賀隆副会長は「農薬を使わずに米ができるのか、最初は半信半疑だった」と振り返る。田んぼに黒い紙を敷き詰め、雑草の繁殖を抑える「紙マルチ」を取り入れたが、それでも除草の手間はかかる。

 小沼孝雄副会長も「手応えが出てきたのは3、4年目頃から。それまでは試行錯誤の連続だった」と語る。とにかく手がかかる手法だが、「環境に負担がかからないやり方で米をつくりたい」という思いが生産者らを支えた。

実りの季節を迎えた天栄米の稲穂
  実りの季節を迎えた天栄米の稲穂

 9年連続金賞獲得という金字塔は、こうした苦労の上に築かれた成果だ。無農薬で育てる天栄米は、品質を保つため収穫量も通常の米より抑えめだ。それを補ってあまりある味が徐々に評判を集め、最近ではネットショップでの販売も好調だという。

 生産者らの努力を象徴するもう一つのエピソードが、2011年3月11日の東日本大震災後の対応だ。東京電力福島第一原子力発電所事故の影響もあり、福島県内の生産者が不安を抱える中、ゼオライトなどを使った放射性物質対策にいち早く取り組んだ。

 「手探りだったが、対策があるならなんでもやってみようという気持ちだった」と話す大須賀副会長。その後、不安を抱えながらの田植えを終え、関係者が胸をなで下ろしたのは秋の収穫時。放射性物質の検出ゼロという結果が分かった時だった。

 天栄米はこの年も全国コンクールに出品され、見事金賞を獲得する。震災と原子力事故の風評に屈しなかった関係者のふんばりが結実した瞬間だった。

 これまでは地元を中心に流通していた天栄米だが、最近では「世界一の米」として徐々に認知度が高まりつつある。福島県産食材の風評対策に取り組む東京電力ホールディングス(HD)福島復興本社の流通促進室が仲介役を務め、首都圏の百貨店でPRする試みも動き始めた。中通り地域の小さな山村でつくられる米が、全国の消費者の目に留まるようになるのも、そう遠い未来ではなさそうだ。

電気新聞2018年4月26日