K4Digital(ケイ・フォー・デジタル)は、関西電力のDX(デジタル・トランスフォーメーション)の取り組みを強力に支援する専門機能子会社として2018年8月に設立され、既に100を超える関西電力のDXプロジェクトをサポートしてきた。今回からは、それら具体的なDX取り組みの実例を示しながら、DXがもたらす効果やDXをさらに深化・加速させていく関西電力の動きについて紹介していきたい。

 前回までK4Digital(以下、K4D)の特徴的な活動について述べたが、今回から具体的なDXの取り組みを紹介させて頂きたい。

 あらためてDXの取り組みとは何かと聞かれると、様々な業務適用を見てきた立場から全くの私見としては、様々な事象をデジタルデータ化し、粒度や鮮度の高いデータを、高度な演算ツールやデバイスなどと組み合わせることで、ヒトの意思決定の高度化や機能拡張の効果を生むものではないかと思っている。
 

目視の巡視点検を大きく凌駕

 
 例えば、K4Dが初期に支援した取り組みの一つになるが、火力発電所の巡視点検ロボットは、その好例かもしれない。ヒトの視覚・触覚・聴覚・嗅覚が可視光カメラやサーモセンサー、音響マイクやガス検知器に置き換わり、異常検知のAI学習モデルと組み合わせることで、これまで発電所所員がやっていた巡視点検作業を可能とする。

 機能の拡張という点では、例えば通常700万画素程度の人の目視が、2千万画素相当のカメラに置き換わり、ガス検知器も人間が検知できる領域を大きく凌駕(りょうが)する。音響センサーは0.1~100キロヘルツの周波数を検知し、24時間稼働するので深夜のちょっとした異音も拾う。AI学習により、漏油は異常と判断して所員に発報するが、例えば通路に置かれた段ボールは検知はするが危険ではないと判断する。

 運転中の発電所において、自動走行で巡視点検を行い、ディープラーニングでリアルタイムに設備を診断する事例は国内初であり、メディアでも取り上げられた。発電所のように多岐にわたる設備の巡視点検には多くの経験と労力が必要であり、今後の労働者不足に対応するためには、こうした代替機能の構築と効率化が避けて通れないのである。

 K4Dは主に高度なデータアナリティクス領域を専門とするが、以降、データ分析を基点としつつ、「画像認識(見る)」、「音声認識(聞く)」、「機械学習(考える・予測する)」といった機能ごとに、いくつか事例を紹介していきたい。
 

水力発電所への流氷雪を自動検知

 
 まず、画像認識の事例である。K4D発足当初は、とにかく人手がかかっていて、効率化効果が分かりやすい案件が多かった。水力発電所の流氷雪(スノージャム)の自動検知プログラムは、その先駆的事例として分かりやすい。

 水力発電所では、厳冬期の流氷雪が取水口へ侵入することを防ぐため、24時間体制で監視員が映像を確認し、手動で水門を操作している。K4Dでは膨大な量の川面の映像データを機械学習させることで、流氷雪か流氷雪でないかを高精度で見極め(水面の光の反射やごみの存在など、アルゴリズムの設計にノウハウが必要)、水門の自動制御とあわせて、大幅な業務量削減を可能にした。この技術は国内初で特許も出願しており、その後社外に当プログラムを実装したシステムを提案して成約につながるなど、関西電力のDXサイクルが結実した好事例であり、K4Dとしても誇らしい取り組みの一つである。

 なお、この関西電力のDXソリューション開発から販売メニュー化に至る流れは、先日設立した関西電力の新事業会社「Dshift(ディー・シフト)」社に受け継がれることになる。Dshiftでは、今後K4D開発分も含め、設備点検管理などのDXソリューションメニューを社外に提案・販売していく予定であり、関西電力の専門機能子会社としてDX支援を展開するK4Dと、外販提供機能を持つDshiftの相乗効果によって、関西電力のDXがさらに深化・加速していくことを大いに期待したい。

電気新聞2021年4月19日