[ウクライナショック]識者の見方/三浦 瑠麗氏
ロシアによるウクライナ侵攻は、国際的な規範に照らして、1ミリも正当化できない。主権国家の秩序をないがしろにしている。中国やインドもこころよくは思っていないだろう。対して欧米は、ウクライナに武器や軍事的な情報を与えて支援するが、NATO(北大西洋条約機構)への飛び火や核使用にまで進展する事態は避けなければならない。
外交と戦争はまったく別物のように言われることが多いが、外交交渉は戦争が始まってからは戦況に依存する。優勢な側は停戦に応じず、旗色が悪くなって初めて交渉に応じるところがある。ロシアの想定外の苦戦によって停戦条件の目標はやや後退した。最悪の事態を避けるためにも、ロシアに撤退の口実を与えてあげることが重要になる。
ロシアは経済規模では大した国ではないが、エネルギー分野において存在感が大きいために制裁の手段として虎の子の外貨準備高やエネルギーの輸出に手をつけた。効果的だが、プーチン政権をつぶすには至らないと思う。仮につぶれたからといって平和的な国家になるとは限らない。
大きな流れとして、新たな世紀に突入するインパクトが生じている。新世紀はアメリカンセンチュリーではないということだ。今回の事象でアメリカの覇権は毀損(きそん)され、中国の存在感が増している。一例として、サウジアラビアが中国と人民元決済で原油取引をする検討を始めている。それは、アメリカが通貨の覇権を手放すことにつながる。
日本にとっては不利な流れだろう。日本がロシアと実際にどれだけ取引しているかということは大きな問題ではない。要は、中長期的にみて、世界的な金融システムの変化やエネルギーの地図が塗り変わることで、甚大な影響が生じるということだ。
アメリカから中国に経済的な影響力が徐々に移行すると予想されるなか、今後、同じ東アジアの住人として日本は、中国とどう共存していくのかも問われてくる。
(聞き手・論説副主幹 藤原 雅弘)
<みうら・るり> 1980年神奈川県生まれ。東京大学農学部卒、同公共政策大学院および法学政治学研究科を修了、博士(法学)。東大政策ビジョン研究センター講師などを経て、山猫総合研究所代表。国際政治学者として活躍。
(談)
電気新聞2022年3月25日