政府、高レベル廃棄物地層処分「科学的特性マップ」を公表

科学的特性マップ

経済産業省・資源エネルギー庁の「科学的特性マップ」をもとに
電気新聞で加工・作成

◆4色で適性塗り分け

 28日提示された「科学的特性マップ」は、高レベル放射性廃棄物の地層処分への適性を4色で塗り分け、日本地図に落とし込んだものだ。このマップを基に、国と原子力発電環境整備機構(NUMO)は今後、適性があるとされた地域により重点を置いて説明会や対話活動を重ねた後、複数地域に文献調査を受け入れてもらうよう申し入れを行う方針。

 適地から除外される好ましくない範囲の要件・基準などの策定に当たっては、総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)の放射性廃棄物ワーキンググループ(WG)と地層処分技術WGが検討を担い、最終的に今年4月に正式決定された。

 要件・基準はいずれも地球科学的・技術的な観点に絞ったことが特徴。人口の密集度合いや土地確保の容易性、経済性といった「社会科学的」な視点は今回のマップそのものには織り込まず、提示後に議論を深めていくと整理した。

 地層処分に好ましくない範囲の具体的な要件・基準としては、(1)火山・火成活動(2)断層活動(3)隆起・侵食(4)地熱活動(5)火山性熱水・深部流体(6)軟弱な地盤(7)火砕流などの火山の影響――の7項目を提示。いずれか一つでも該当した場合はオレンジに色分けされる。同様に、炭田・油田・ガス田、金属鉱物が地下深部に存在すると推定されるエリアも将来の人間侵入の可能性から除外され、シルバーに分類される。

 これ以外の「好ましい特性が確認できる可能性が相対的に高い」地域はグリーンに、さらに海岸から20キロメートル以内と距離が短い範囲(沿岸海底下や島しょ部を含む)は高レベル廃棄物の輸送が容易なため、「輸送面でも好ましい」と位置付け、濃いグリーンで表現されている。

 オレンジの部分は国土全体の30%で、その大半は約400の火山が占める。半径15キロメートル以内をマップ上では円で、約600の断層は線で表現。千葉県房総半島の突端や高知県室戸岬など四角で表されたエリアは隆起量が多いことを示している。シルバーは国土全体の5%。一方、グリーンは35%、濃いグリーンは30%を占めた。いずれも陸域のみで、海域は含まれない。

 日本全国の市町村と東京23区を合わせると、合計で1750の自治体がある。一つの自治体に複数の色が塗られていることがあるため、重複はあるものの、自治体数ではオレンジが約千、シルバーは約300、グリーンは約900、濃いグリーンは約900に上る。

 マップは、経産省・資源エネルギー庁のホームページ内に置かれた特設サイト(http://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/nuclear/rw/kagakutekitokuseimap/)からダウンロードすることが可能。ブロックごとの拡大図なども閲覧することができる。

◆過去の経緯と基本方針改定/国が候補地絞り込み

 高レベル放射性廃棄物の最終処分事業は、これまで原子力政策の最大の課題だった。処分地選定プロセスは国の基本方針に沿い、原子力発電環境整備機構(NUMO)が全国の自治体から公募して処分場建設地を探すアプローチが取られてきたが、過去に応募があったのは2007年の高知県東洋町のみ。同町も応募して間もなく、町長選を経て取り下げた。なかなか進展しない状況を打開しようと、政府は15年に最終処分に関する基本方針を改定。国が調査対象となりうる自治体に申し入れる方式へと転換するなど、処分地選定アプローチを抜本的に見直した。

 最終処分事業は2000年6月に施行された「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」(最終処分法)に基づき行われている。実施主体として同年、NUMOが設立されるとともに、基本方針と最終処分計画が閣議決定された。最終処分法では、(1)自然災害の履歴などを調べる文献調査(2)ボーリングなどで地質構造を確かめる概要調査(3)実際の地下施設で試験を行う精密調査――という3段階の調査を定めている。

 当時の計画では、処分場の操業時期を「平成40年代後半」と設定。それに先立つ精密調査地区選定時期を「平成20年代前半」、建設地の選定時期を「平成30年代後半」としていた。文献調査には約2年、概要調査には約4年、精密調査には約14年と、計20年程度の調査期間を想定している。

 そうしたスケジュール感を持ってNUMOは02年から公募を開始。しかし、文献調査にすら応じる自治体はなかなか現れず、足掛かりがつかめなかった。地元で誘致の動きが報じられたとたん、反対運動に会い頓挫するケースが相次いだことも大きい。

 そうした中、事態が大きく動いたのは07年。東洋町の田嶋裕起町長(当時)が同年1月、文献調査への応募を表明した。長い処分地選定プロセスの初期段階ではあるものの、初の“立候補”が出たことで、事業が前進するかに見えた。

 だが、町長の方針に町論は二分。高知県知事も反対の立場を鮮明にした。田嶋町長は町長選に打って出るが、応募に反対していた候補に敗北。結局、NUMOへの応募は取り下げられた。基礎自治体という小さな行政単位の首長に重い決断を求める公募方式の難しさが浮き彫りになった。東洋町に続く動きはなく、精密調査地区の選定時期として描いていた「平成20年代前半」は過ぎた。東日本大震災前に想定したスケジュール感は「実質的に白紙に近い」(経済産業省)。

 政府は停滞状況を打破しようと、15年5月に最終処分法に基づく基本方針を改定した。公募方式だけでなく、国が候補地を絞り込んで自治体に申し入れる方法を取り入れることが柱だ。NUMOも全国各地での住民向け説明会を強化した。

 調査への協力を要請するに当たっては、合意形成に向けた地域レベルでの自発的な動きも重要になる。それに役立ててもらうために作成・公表されたのが、今回の「科学的特性マップ」である。

◆2015年に改定された「最終処分基本方針」の骨子

○将来世代に負担を先送りしないよう、現世代の責任で取り組みつつ、可逆性・回収可能性を担保し、代替オプションの技術開発も進める
○事業に貢献する地域への敬意や感謝の念の国民間での共有を目指す
○国が科学的有望地を提示し、調査への協力を自治体に申し入れる
○地域への合意形成や持続的発展に対して支援を行う
○技術開発の進捗などについて原子力委員会が定期的に評価を行う

◆放射性廃棄物の地層処分とは/生活空間と完全に隔離

 日本では原子力発電によって生じる使用済み燃料を、英仏や日本原燃の使用済み燃料再処理工場(青森県六ケ所村)でウランとプルトニウムに分離し、MOX(ウラン・プルトニウム混合酸化物)燃料として再利用する核燃料サイクル政策を取る。再処理の過程で発生する高レベル放射性廃液は、溶融炉でガラス原料と混ぜて固められる。このガラス固化体が高レベル放射性廃棄物で、地層処分の対象になる。英仏での再処理に伴い発生した固化体は、原燃の高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターで一時保管されている。

 高レベル廃棄物は、放射能レベルが減衰するまで長期間を要するため、生活空間から隔離するとともに、人間による管理に委ねずに済むような方法で処分する必要がある。それに適した方法が、地下深部での隔離。地下300メートル以深に処分施設を建設し、オーバーパックと呼ばれる金属容器や、水を通しにくい粘土で覆った上で、その施設内に埋設する。

 地下深部の岩盤は安定しており、それ自体が生活空間と高レベル廃棄物を隔離する「天然バリアー」の役割を持つ。地上で保管・処分するよりも、地震や津波といった自然災害の影響を受けにくく、安全上のリスクも小さい。海洋投棄や宇宙処分などの研究・検討も重ねられてきたが、地層処分が最善の方法という点は、国際的にも共通した考え方になっている。