「高額料金が連続することに懸念がある。セーフティーネットを検討してほしい」。2019年12月17日に開かれた電力・ガス取引監視等委員会制度設計専門会合。需給逼迫時のインバランス料金を1キロワット時当たり200円(22~23年度の暫定措置)とする事務局案に、F―Powerなど新電力数社が懸念を示す場面があった。

 日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格が100円を超え、新電力経営に冷や水を浴びせた18年夏は記憶に新しい。インバランス料金高騰は経営体力が弱い会社にとって新たな脅威だが、会合で同調する声はほぼ皆無だった。ある委員は「経営を守るのは制度ではなく新電力自身。甘えているのでは」と苦言を呈した。

 16年4月に始まった電力小売り全面自由化。大手電力によるJEPXへの限界費用玉出しという非対称規制を導入し、電源を持たない事業者が参入しやすい環境を整えた。19年11月末時点で469者が販売を行っている。
 
 ◇空気が変質
 
 同月販売電力量に占める新電力シェアは約15%。規制の追い風もあり一見、競争が順調に進んできたかにみえる。だが、インバランス料金を巡る冒頭のやりとりは、そんな新電力を取り巻く空気の変質をうかがわせる。

 相次ぐ災害対応などを機に、経済産業省は規模の大小を問わず、全小売事業者が安定供給に応分の責任を果たす制度設計へと舵を切り始めた。中堅新電力トップは「自由化初期にあった新電力を育てようという思いが薄れてきた。今後、いよいよ優勝劣敗が鮮明になるのでは」と語る。

 自由化を取り巻くもう一つの大きな動きが、電力間競争の進展だ。経産省によると子会社を含む大手電力の19年9月の域外シェアは4.1%で、18年4月比2.3倍に伸びた。

 中でもこの1年、首都圏を中心に販売量を大きく伸ばし注目を集めたのが、九州電力グループの九電みらいエナジーだ。

 19年度上半期(4~9月)販売量は前年同期比14倍。19年11月のランキングでは特別高圧3位につけた。「他社を刺激したくない」とPRには消極的だが、複数の関係者の証言を重ねると、急成長の理由がみえてきた。

 キーワードは”身軽さ”だ。特に駆け出しの新電力にとって重荷となるのがシステム投資と販管費だが、九州電力は当初、本体での首都圏進出を検討していた経緯から、一定程度システム構築が進んでおり、一から手掛ける必要がなかったとみられる。成長した今も少数精鋭体制で、販管費が軽いのも強みといえそうだ。
 
 ◇電源持たず
 
 新規参入者にとって、東日本エリアでの電源調達のハードルが低くなったことも見逃せない要因だ。小売り競争の鍵は価格。それを左右するのが電源調達だが、九州電力グループは東日本に大規模電源を持たない。

 九州で電気が余っているからといって、東日本に常に安く送れるわけではない。エリアをまたいで電力を取引する場合はスポット市場を経由する。19年度(19年4月1日~20年3月25日受け渡し分)の実績をみると、全体の84%のコマで九州~東京間の市場分断が起き、エリア間値差が発生している。

 分断時の価格は東高西低。九州が01銭という極端な安値をつけるケースもあり、東日本に送る場合のリスクになる。間接送電権を購入し、値差リスクをヘッジする手もあるが、九州から中国向きは市場にほとんど出回らない。

 こうした足元の状況だけを考えれば、卸電力取引所から調達した方が合理的だ。スポット市場の東京エリアプライスは19年度平均で9円15銭。前年度より1.5円ほど安い。

 北海道のような一部地域を除き、東日本でも電源の余剰感が高まったことが背景にある。19年度にはベースロード電源市場と先物市場の取引も始まり、調達の幅が広がった。

 固定費に縛られず、身軽さを武器に小部隊で契約を積み上げる様を、ある大手電力関係者は「部分自由化初期のPPS(特定規模電気事業者)を思い出す。小売りの原点をみるようだ」と評する。
 

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 電力小売り全面自由化が、4月から節目の5年目を迎える。生き残りをかけた新電力の戦略を中心に、競争の実相を取材した。

電気新聞2020年3月25日
 

連載「全面自由化5年目 新電力競争の実相」は全5回です。第2回以降は電気新聞本紙または電気新聞デジタルでお読みください。