様々なモノがクラウド上の様々なサービスとつながるサイバー・フィジカル・システム(CPS)の普及・拡大に伴い、つながった機器の利用者における個別ニーズへの対応など、新しいビジネスモデルの展開が容易になる。さらに、人工知能(AI)の活用などクラウドでの高度な情報処理を適用することで、新しい顧客価値を創出することが可能となってきた。今回は、ビジネスモデルの変化と三菱電機が考える、家電機器・設備機器事業の新しい顧客価値の創出について述べる。
 

これからのビジネスモデルのキーワードとは

 
 前回述べた通り、新しいモノとコトの関係は、顧客価値や顧客ニーズに新たな影響を与える。この結果、これからのビジネスモデルは次の3つのキーワードで表される方向に進化するものと考えられる。

 (1)One―to―Oneマーケティング
 顧客とつながることで得られる個別ニーズに対応して製品・サービスをカスタマイズすること。ハードウエアと異なりソフトウエア化した機能やサービスは、個別ニーズの自動化が可能となる。クラウド上の機能やサービスをAIにより先読み提案したり、多様なデバイスと連携して提供したりすることで
CX 3.0
が実現される。

図_CSP_4c

 (2)ストック型ビジネス
 製品が顧客とつながることで、販売・保守・買い替えといった製品のライフサイクルをトータルでサポートすること。利用者がモノを保有せず、機能をサービスとして購入するサブスクリプション型の販売モデルと組み合わせる動きも出てきている。また、買い替えの際に、これまでの製品の使われ方から適切な後継機種の提案も可能となる。

 (3)APIエコノミー
 顧客の様々なニーズに対応するためには、複数の企業が得意分野を融合してサービスを提供することが重要となってくる。Web APIにより複数企業がサービスを連携して提供することをAPIエコノミーと呼ぶ。既に、様々なサービスがWeb APIによる連携を実現しているが、データの安全性に関する懸念からまだ限定的な利用にとどまっているという課題もある。
 

「機器」から「くらしを支えるソリューション」に

 
 つながる技術の進歩と市場の変化に対応し、三菱電機も、従来と異なった新しい顧客価値を創出する取り組みを開始した。

 家電機器・設備機器の開発・製造・販売において、これからは「お客さまが操作する機器を作る」という発想から、「お客さまのくらしを支えるソリューションを提供する」という考え方への転換が必要となっている。

 各製品がお客さまに提供する価値は、製品の使用目的により快適性、利便性、持続性、経済性、安心/安全、娯楽、健康など多岐にわたるが、それぞれの価値をお客さま個別に適応させ、それぞれの生活の状況に合わせて自動的に代行し、さらに、お客さまと製品のライフサイクルの長期にわたるサポートをしていくことで各価値を今までと異なった次元へと高めることが可能であると考える。

図_コンセプト_4c
 この考え方を価値創出コンセプトと名付け、(1)パーソナライズド・エクスペリエンス(個人適応)(2)プロアクティブ・アシスタンス(先読み自動化)(3)ライフサイクル・サポート(生涯対応支援)――の3つの段階を定義した。個人適応により顧客価値を高度化し、先読み自動化により感動を与え、さらに、生涯対応支援により愛着に発展させるという構想である。

 次回は、最終回として新しい価値を創出するために開発したIoTプラットフォームとビジネスモデルの変革に向けた全社の取り組みについて説明する。

【用語解説】
◆CX 3.0(Customer eXperience 3.0)
CX(顧客価値)において、1970年代の顧客の声を重要視する時代をCX 1.0、1990年代の顧客との関係をITにより管理する時代をCX 2.0とし、CPS(サイバー・フィジカル・システム)により新たな顧客価値の創出をする時代をCX 3.0と呼ぶ。

◆サブスクリプション
モノを保有するために販売・購入するのではなく、必要な機能をサービスの利用権として必要な期間だけ定額課金で販売・購入するビジネスモデル。

◆Web API(Web Application Programming Interface)
ウェブサービスをアプリケーションのプログラムからアクセスし、操作するためのインターフェース。

電気新聞2019年11月25日