「地下神殿」とも呼ばれる調圧水槽
「地下神殿」とも呼ばれる調圧水槽

 台風19号など首都圏で洪水発生のリスクが顕在化する中、それを防ぐための施設が埼玉県春日部市にある。地下50メートルを流れる「首都圏外郭放水路」だ。地上に整備されたサッカー場からはその姿を想像しにくいが、地下には世界最大級の放水路が広がる。周辺の中小河川で洪水が起きた際、その一部を取り込んで余裕がある江戸川に流す役割を果たす。台風19号の際は約1218万立方メートルの水を取り込み、実に東京ドーム約10個分に及んだ。

地上にある調圧水槽の入り口。周辺にはサッカー場が広がる
地上にある調圧水槽の入り口。周辺にはサッカー場が広がる

 外郭放水路は、国土交通省関東地方整備局の江戸川河川事務所が管理。洪水防止のために2006年に建設され「流入施設」「立坑」「調圧水槽」などで構成する。

 洪水の取り込み機能は、流入施設と立坑が担う。周辺河川の水位が堤防にある越流堤を超えると、自動で流入施設に流れ込む仕組み。立坑はその水をため込む。深さ約70メートル、内径約30メートルで、自由の女神がすっぽり入る大きさを誇る。全部で5つある立坑はトンネルでつながっており、全長6・3キロメートルの「地下の川」を形成する。

 地下トンネルを流れる水の勢いを弱め、江戸川へスムーズに流すのが調圧水槽だ。地下22メートル地点に位置し、長さ177メートル、幅78メートル、高さ18メートル。全59本の巨大な柱などで構成する内部は、荘厳な雰囲気さえ醸すことから「地下神殿」と呼ばれる。柱で天井を支える構造を採用し、地下水からの揚力で水槽が浮き上がるのを防ぐ。水槽の床の一部には、台風19号の際に取り込んだ土砂が残っていた。

 11月24日には、国際通貨基金(IMF)のクリスタリナ・ゲオルギエヴァ専務理事が各施設を視察。台風19号襲来時には約264億円の浸水被害軽減効果があったとの説明に対し「最もコスト効果が高い投資の一例だ」と評価した。

 住民が直接的に利用するインフラではないが、洪水時には多くの人の命を守る重要な施設だ。事前予約をすれば見学できる。

電気新聞2019年12月4日