英国の主力発電として年々存在感を増している洋上風力
英国の主力発電として年々存在感を増している洋上風力

 首都停電の引き金は洋上風力停止だった――。

 8月9日夕方に英国で発生し、ロンドンを含む広域に被害が出た停電事故。電力供給は1時間以内に復旧したが、ラッシュアワーの鉄道運行などに影響が及んで社会問題化した。
 
 ◇主力は再生エネ
 
 送電線への落雷をきっかけに発電所が相次ぎ脱落し、需給バランスを維持できなくなったことから、一時的な負荷遮断に踏み切った。落雷後に脱落した供給力計187万キロワットのうち4割が1カ所の大型洋上風力に由来する。

 局所的な事故ならともかく、再生可能エネルギーの脱落が広域停電を起こす事態を日本ではまだ想像しにくい。英国の停電は、再生可能エネが文字通り主力電源として稼働する国の姿を映し出す。

 具体的な数値をみてみよう。英国政府が公表した2019年第1四半期(1~3月)のエネルギー統計によると、発電電力量に占める再生可能エネの割合は35.8%。ガス火力(41.9%)に次いで高く、原子力(16.0%)を上回る。

 再生可能エネ比率は前年同期比5.3ポイント増えた。牽引役は6割を占める風力。足元の発電量は若干、陸上が上回るが、前年同期比の発電量の伸び率でみると、洋上(7.2%)が陸上(4.8%)を上回る。

 送電系統運用を担う英ナショナル・グリッドESOは5月、「石炭火力ゼロ」の電力供給を1週間続けて達成したと発表した。太陽光と違い、夜も発電できる風力を中心に再生可能エネが伸びたことが、石炭を中心とする大型火力の市場からの退場を促すなど、供給構造の変革が進む。

 英国は6月、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることを先進国で初めて法制化した。国を挙げて低炭素化に取り組む。欧州連合(EU)離脱を巡る混乱に国が揺れる中でも「温暖化対策だけは全く揺らがない」と、現地のエネルギー政策に詳しい専門家は話す。
 
 ◇配電が系統運用
 
 低炭素化と同時に進行しているのが電源の分散化だ。27万5千Vや50万Vといった基幹系統に連なる大型火力が供給の大半を担う日本に対し、英国では全体で約1億キロワットある電源のうち、13万2千V以下の系統に接続するものが約3割まで拡大してきた。

 送電網と配電網を大手電力会社が一体運用する日本と異なり、英国では13万2千V以下の系統運用を6配電会社が担う。

 「Transition from DNO to DSO」(DNOからDSOへの転換)。電源の分散化に伴い、英国では配電会社が系統を運営・保守するDNO(ディストリビューション・ネットワーク・オペレーター)ではなく、需給調整に主体的に関わるシステムオペレーター(SO)に変わるべきだという議論が盛り上がってきた。

 再生可能エネなど分散型電源の拡大に合わせて野放図に配電設備を拡張すると、託送原価の上昇を招く。配電会社が自ら調整力を調達するなどして効率的な設備形成に努めなければ、供給構造の分散化に対応できない。そんな問題意識が背景にある。

 一方、これまでナショナル・グリッドの独壇場だった需給調整の一部を配電会社が担うことになれば、両者の役割分担があらためて問われる。分散化の進展に伴い、英国全体の需給調整を担うナショナル・グリッドと、その指令に従う配電会社という従来の関係性に変化の兆しが出てきた。
 

◇ ◇ ◇

 
 英国で進む電源の低炭素化や分散化は従来型の供給システムに変化を促すだけでなく、事業者間、産業間にあった境界線を突き崩すインパクトを秘める。その影響は送電と配電の関係性の変化にとどまらない。電気自動車(EV)の普及により、モビリティーとエネルギーの間にあった壁も崩れ始めた。現地の動向を紹介する。

電気新聞2019年9月26日

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