契約を締結したSBパワーの中野社長(左)とふくしま新電力の相良社長
契約を締結したSBパワーの中野社長(左)とふくしま新電力の相良社長

 500を超える多くのプレーヤーがひしめく新電力業界で、市場リスクなどへの対応策として合従連衡が進んでいる。大手電力からの出資受け入れに続き、足元で表面化してきたのは力を付けた新電力が卸供給や需給管理で規模が小さいプレーヤーを支え、緩やかなアライアンスを形成する動きだ。支援する側にとっても、自社の人員を増やさず収益を拡大できるメリットがある。
                 
 「私たちがせっついたというと言い過ぎだが、急いで対応頂いたのが正直なところ」。SBパワーから卸供給を受けると発表した6月26日の会見席上、ふくしま新電力の相良元章社長は卸の契約締結に安堵(あんど)の表情をのぞかせた。
 
 ◇リスク対策
 
 相良社長の念頭にあったのは2018年夏の悪夢だ。日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格が、西日本で1キロワット時当たり100円超をつけ、東日本でも60円に跳ね上がる時間帯があった。

 1キロワット時当たり20数円で販売する電力の多くを、市場から調達するふくしま新電力にとって、スポット価格高騰は経営を直撃するリスクだ。「今年もまた恐怖の時期が近づいている。なんとかその前に供給を始めてほしかった」(相良社長)

 18年の冬、夏に続いたスポット価格高騰は市場活用を当たり前だと考えていた多くの新電力に強い危機意識を植え付けた。その結果加速したのが調達手段を旧一般電気事業者(旧一電)などとの相対契約に切り替える動きだ。

 SBパワーによる卸供給開始も基本はこうした流れの延長線上にある。ひと味違うのは電力を卸すだけでなく人工知能(AI)を使った需給予測やコールセンター、顧客管理といった他のメニューを加え、小規模な新電力の業務を丸ごとサポートするBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)サービスとして打ち出した点だ。

 契約第1号のふくしま新電力は、卸供給に加え需給管理サービスを使う。26日の会見に同席したSBパワーの中野明彦社長は「我々は需給管理の拠点を2カ所設け、専任スタッフが対応する。予測精度も日々上がり、低コストで他社に提供できる。全国で頑張る新電力の皆さんを“黒子”として手伝いたい」と語った。

 SBパワーは電力小売り全面自由化とあわせて家庭向け販売に参入し、通信とのセットプランでシェアを伸ばしてきた。拡販を支えるのは全国の販売店だが、そもそも来店しない顧客と接点を持つのは難しい。中小新電力との提携拡大は間接的に新規顧客をつかむ機会にもなりそうだ。
 
 ◇他社も検討
 
 実はこうした取り組みはSBパワーにとどまらない。丸紅新電力は小売事業で悩みを抱える新電力などと対話し、協業を視野に検討を進めている。

 販売電力量ランキングで新電力トップのテプコカスタマーサービスも、これまでに一部新電力のオペレーション業務を外注した例がある。低価格競争で本業の小売事業の収益性が伸び悩む中、力を付けた新電力が、様々なソリューションを軸に中小のプレーヤーと緩やかなアライアンスを形成する動きが、今後加速しそうだ。

電気新聞2019年7月10日