カーボンニュートラル社会の実現には、二酸化炭素(CO2)を排出削減の対象として扱うだけでなく、炭素資源として循環利用する視点が重要である。本稿では、CO2からメタノールを合成する触媒技術に焦点を当て、その現状と課題、低温・低圧化に向けた触媒設計の考え方を紹介する。
カーボンニュートラル社会の実現には、CO2の排出を減らすだけでなく、CO2を回収し、回収したCO2をどのように利用するか、という視点が重要である。発電所や工場などから排出されるCO2を回収し、燃料や化学品の原料に変換できれば、炭素を循環利用する新しい産業基盤につながる。

CO2利用には複数の出口がある。例えば、CO2を一度、一酸化炭素(CO)へ変換し、そこからフィッシャー・トロプシュ合成により液体燃料を製造する方法がある。また、CO2からメタノールを合成できれば、メタノールはオレフィン、芳香族、合成燃料など多岐にわたる化学品の原料として利用できる=図。
一方で、安定な分子であるCO2の再資源化には、投入するエネルギーに見合う効率的なプロセスが必要であり、一連の物質変換を省エネルギーで進行させることが求められる。触媒は、反応しにくいCO2と水素との反応を促進し、目的とする生成物へ導く役割を担う。CO2を炭素資源として有効利用するには、目的とする反応に応じた触媒開発が不可欠である。
◇速さや安さと両立
CO2をメタノールへ変換する化学プロセスは、根本的なジレンマを抱えている。メタノール生成は発熱を伴う平衡反応であるため、低温・高圧が有利である。
しかし、低温では反応が遅くなり、高圧化すれば圧縮や設備のコストが増える。つまり、メタノールを得やすい条件と速く安くつくる条件が一致しない。この隔たりこそが、CO2メタノール合成を難しくしている。
このジレンマを解くための中核技術が触媒である。触媒は、CO2と水素との反応を促進して、COなどの副生成物を抑えながらメタノールへ導く。低温でも十分に反応を進め、できるだけ穏やかな圧力で高い選択性を示す触媒ができれば、CO2利用は大きく実用に近づく。
現在、工業的なメタノール合成では銅と酸化亜鉛を主成分とする触媒(Cu/ZnO/Al2O3)が標準的に用いられている。この触媒は高い実用性を有する一方、もともとは天然ガスを改質して得られるCOを含む合成ガスを、高圧プロセスの中でメタノールへ変換する技術として発展してきた。CO2のみを原料とする場合には、水の生成やCO生成との競合がより顕著となるため、CO2水素化に適した反応場をあらためて設計することが重要である。
◇反応場構築目指し
この課題に対し、東京都立大学、北海道大学、大阪公立大学、中国電力は共同で、低温・低圧で作動するCO2メタノール合成プロセスを目指した研究―科学技術振興機構(JST)「戦略的創造研究推進事業 ALCA―Next(先端的カーボンニュートラル技術開発)」(代表:宍戸哲也東京都立大学教授)―を進めている。
発電所や工場から排出されるCO2は常圧付近にあり、圧縮エネルギーや設備負荷を抑え、起動停止のしやすい小型・分散型プロセスへ展開する上でも有用である。その実現に向け、触媒の金属酸化物表面や金属酸化物界面に着目した革新的な触媒開発を進めている。筆者らが得意とする金ナノ粒子触媒技術と、宍戸教授らが得意とする界面形成技術を融合し、CO2を有用なメタノールへ変える反応場の構築を目指している。
炭素循環型社会を実現するため、排出されるCO2を単なる処理対象ではなく、次の燃料や化学品を生み出す資源へ変える。その転換を支える中核技術として、触媒開発の重要性は今後さらに高まるだろう。(この項おわり)
電気新聞2026年6月15日





