北米・中東電力のAI(人工知能)事例を取り上げる。電力AIランキング北米1位のデュークエナジーは、ビッグデータがブームとなった2010年代に「データドリブンカンパニー」戦略を取った。データ科学者とAI技術者を採用し、MADラボ(機械学習のM、人工知能のA、深層学習のDの頭文字)と呼ぶAI専任組織で内製開発を志向した。20年代に入るとAWSと提携し全領域に機械学習を展開した。また原子力発電所に北米初の生成AI商用化やフィジカルAI(現実世界を認識・理解し複雑な行動ができる自律マシン)に取り組む電力も出てきた。

 デュークエナジーのMADラボはインテリジェントグリッドサービス(IGS)を開発した。AIで需要や屋根上ソーラー、EV普及を予測、グリッド投資計画を最適化する。IGSをAWSに移行し数千万回の潮流解析を高速化、従来「週単位」だった解析を「時間・分単位」に短縮した。ほかに、(1)1万台以上の変圧器健全度評価を数週間から数日に短縮(2)アンサンブル機械学習モデルにより負荷ピークを高精度に予測(3)AIを活用したSOC(セキュリティー運用センター)も取り組むSciML(物理法則を組み込んだ機械学習)とHITL(ヒューマンインザループ、現場専門家とAIの融合)によるAI開発――も特徴的だ。SciMLでは、潮流や設備劣化など物理モデルと機械学習を組み合わせ、送電容量推定や停電復旧時間予測の精度と速度を向上。HITLでは、植生管理・送電線監視でAIの提案値を現場技術者が検証しフィードバックする仕組みを標準化し、安全性と説明責任、現場適合性を確保した。

 ◇インハウスで開発

 ネクステラエナジーは北米最大級の再エネ資産と日々数千億の運転データを核に、発電予測と予防保全、運用最適化にAIを活用。これを支えるのが100人規模のインハウス分析チームで、ネクステラ360やテラグリッドを開発する。ネクステラ360はエネルギー最適化基盤。発電と消費に蓄電や気象データを統合し、発電予測や最適な充放電計画、排出量監視といった機能を持つものだ。グーグルと提携しSaaSとして自治体などに外販する。また、テラグリッドは数理最適化とAIを用いて系統計画の意思決定を支援する。

 PG&Eは、米国で初めて原子力発電所にオンプレミス生成AIを本格導入した。従来数時間必要だった原子力発電所の運営に必要な数十億ページの技術文書から必要な情報を検索する時間を、数秒に短縮した。

 系統運用機関PJMはグーグルとAI搭載の電力網統合基盤を構築中だ。従来、系統接続申請書類の9割超に不備があり、手作業で確認・修正していた。系統接続の判断に必要な情報を一元化し、AIを用いて申請処理を大幅に短縮する計画だ。


 AESは世界で初めて、メガソーラーのパネル設置AI搭載ロボット「マキシモ」を開発した。AI画像処理によりあらゆる気象条件下でもパネルの正確な設置場所を特定し、自律的ロボットアームでパネルを取り付けて固定する。これまでに3000キロワットのパネルを設置済みで、設置コストと時間を半減させた。今後3年で最大5000キロワットの設置を目指す。主なパートナーはAWS(ロボット開発基盤、機械学習基盤)だ。

 EPRI(米電力研究所)とエヌビディアは電力業界のAi活用を加速させるため、国際的コンソーシアムを立ち上げた。エクセロンなど米電力大手が参加する。電力セクター固有の課題に対応するオープンソースのAI/生成AIモデルとデータセットに加えライブラリーを開発する。また、AI実装ロードマップ策定や、AIが電力システムに与える影響を評価、信頼性を確立するための標準化フレームワークも開発する。

 ◇電気と水道全てに

 最後に世界初「AIネイティブユーティリティ」宣言したドバイ電気水道局を取り上げる。UAE国家のAI戦略に沿い、電気と水道の全てのコア業務にAI全面導入を目指す。テック大手と組み、顧客対応(多言語対応の仮想アシスタントが大量の問い合わせ処理を自動化)、業務生産性向上(法令・人事エージェント)、スマートグリッド(AI故障診断・自動復旧支援)を急ピッチで開発する。

電気新聞2026年1月19日