休止間近の奈井江発電所
休止した奈井江発電所

 運開から半世紀が過ぎた北海道電力の奈井江発電所(石炭、35万キロワット)が3月末で休止する。同発電所は近隣で採掘される国内炭を燃料に使う。内陸にあるため、冷却水を川から取る。国内では珍しい発電所といえる。休止の背景には、同社が石狩湾新港発電所1号機(LNG、56万9400キロワット)を2月に運開させたことがある。屋内貯炭場の屋根損壊など終盤は息絶え絶えとなりながらも、最後の力を振り絞って同社初のLNG(液化天然ガス)火力へのバトンタッチを終えた。

 取材で訪れた3月19日、奈井江発電所は2基ともフル稼働に近い出力で動いていた。運開から50年を超え、なお現役を続ける国内の火力は数少ない。その中でボイラーやタービン・発電機など主機を運開時からほぼそのまま使い続けているのは、奈井江発電所くらいだろう。

 「最後は満身創痍(そうい)だった」。村山淳執行役員・奈井江発電所長兼砂川発電所長は明かす。

 昨年2月には雪の重みに耐えかねて屋内貯炭場の屋根がひしゃげた。倒壊の恐れもあり、屋内貯炭場の解体を決めた。当初、解体工事は3~4カ月かかると想定された。しかし2台の大型重機を駆使して効率よく作業を進めた結果、1カ月足らずで発電を再開。その後は屋根がなくても雨や雪の影響を回避できる運用方法を編み出し、乗り切った。
 
 ◇災害乗り越えて
 
 昨年9月には北海道胆振東部地震に伴う道内全域停電が発生。19年に入ってからも、ボイラー内部の蒸気漏えいの兆候が1月に1号機で、2月に2号機でそれぞれ見つかった。

 過去には自然の猛威で、より甚大な被害を受けたことがある。1981年8月上旬、記録的な大雨がこの地域を襲い、堤防が決壊。発電所構内の全域が水没した。本館1階の電気室で火災が発生し、3階の中央操作室も延焼した。

 奈井江発電所は2基合計の累計発電量が900億キロワット時強に及ぶ。泊発電所2号機が運開した1990年代以降は年間発電量が徐々に減少し、06年度に約5億キロワット時まで落ち込んだ。その後は伊達発電所の長期停止に伴って一時的に15億キロワット時ほどに増加。泊発電所が全基停止した12年度以降も15億キロワット時近い発電量を記録している。
 
 ◇当面は設備維持
 
 奈井江発電所は休止する4月以降も、大規模電源の被災などで供給力不足が長期化する事態に備えて発電設備を当面維持する。10月からは無人発電所とする予定。それまでに発電所の遠隔監視装置と開閉所の遠隔監視制御装置を設置する。

 3月11日。トラックが発電所に石炭を搬入するのは、この日が最後だ。そのことを伝える地元紙「プレス空知」の1面トップ記事で、奈井江町長はこう話していた。「力強く町内を往来する納炭車の姿を見ることができないのは寂しい」

 地元の熱心な誘致に応える形で建設された奈井江発電所。地元に愛された発電所が、地元に深く惜しまれながら、休止に入る。

 ◆「時代駆け抜けて」村山所長の話

 くしくも平成が終わる年に休止運用となる。昭和の後半から平成の時代を最後まで駆け抜けた発電所といえ、感慨深い。1号機の営業運転開始から50年と10カ月。地元に誘致頂いた期間や建設期間も含め、半世紀以上にわたる諸先輩方のご努力の上に今日の我々がいると感じている。

 グループ会社や協力会社の皆さまのご協力にも深く感謝申し上げる。特にこの1~2年は老朽化に起因する様々なトラブルが起き、そのたびに夜間、休日を問わず対応頂いた皆さまには頭が下がる思いだ。皆さまのおかげで、次代を担う石狩湾新港発電所1号機にしっかりバトンを渡す役割を果たせた。

電気新聞2019年3月27日