近年、あらゆる社会インフラ分野でデジタル技術の活用が進み、電力業界も例外ではない。注目されるのが「スマート保安」だ。ガスや石油といった他インフラ業種が先行する中、電力業界でも安全性や効率の向上を目指し、本格導入への気運が高まっている。AI(人工知能)やIoT、ローカル5Gといった新たな技術が保安体制に革新をもたらしつつある一方で、電力という社会インフラの特性ゆえ、導入には慎重さも求められる。電力分野でのスマート保安の可能性と課題を探りたい。

社会インフラ各分野でデジタル技術を活用する動きが加速する中、電力業界も例外ではない。注目されるのが「スマート保安」である。これは、従来の人手に依存していた電力設備の保安業務を再定義し、IoTセンサーやカメラ、さらにはAI解析などを活用することで、設備や運用の安全性を高める取り組みを指す。ガスや石油分野では既に実用段階に入っており、作業員の負担軽減が実現するとともに、保守作業の効率化が顕著に進んでいる。電力業界もこうした潮流を注視しており、デジタルトランスフォーメーション(DX)の一環として導入検討が本格化しつつある。
◇多角的な検証必要
電力業界がデジタル技術の導入に慎重である背景には、「24時間365日」設備を停止することなく電力の共有を維持するという絶対的な責務がある。万が一、保安上のトラブルが発生すれば、社会や経済活動への影響は甚大だ。そのため電力業界では新しい技術の導入においても、単なる技術革新ではなく、その技術が確実に安全性を確保できるかどうか、また万が一の場合にも適切な対応が可能かどうか、といった多角的な検証が求められ、先行事例を注視しながら動く傾向が強い。
だが一方で、現場の労働力の深刻な不足や、長期間稼働している設備の老朽化といった課題が顕在化している。従来の人海戦術による保全作業では、これらの課題に対応することが次第に難しくなってきており、従来型の運用モデルには限界が見えてきているのが現状だ。
◇現場と経営つなぐ
スマート保安が従来の仕組みと異なる点は、現場の監視機能の強化だけにとどまるものではないことだ。収集した設備データを高度なAI技術で分析・解析し、その情報を経営層に適切にフィードバックすることで、戦略的な保安体制を構築することにもつながる。例えば、収集した設備データから異常の兆候を検知し、故障のリスクを予測することで、点検や補修のタイミングを最適化できる。これにより、突発的なトラブルを未然に防ぎ、保守コストの削減も期待できる。現場と経営をつなぐ一体的なデータ活用こそが、スマート保安の核心である。
こうしたスマート保安を支えるのが通信インフラである。現場から膨大なデータを送るには、低遅延・広帯域・高セキュリティという三つの条件が不可欠だ。従来、電力業界では有線ケーブル(光・LAN・制御)が中心であったが、保安領域で求められる柔軟性や広域カバーには限界がある。近年ではWi―Fiの活用も広がっているが、干渉やセキュリティー面に課題が残るのが現状だ。
電力業界がこれからスマート保安を本格的に進めるには、こうした通信課題をいかに克服するかが大きな焦点となる。次回は、さまざまな通信技術の特性を整理し、スマート保安に最適な通信インフラを探ってみたい。
◆用語解説
◆スマート保安 デジタル技術を用いて社会インフラ設備の保守・監視を高度化する取り組みを指す。従来は作業員による巡視や点検が主流であったが、IoTセンサーやカメラ、AI分析を活用することで、遠隔から常時監視が可能となり、異常の早期検知や人的ミスの削減が期待される。さらに収集したデータを経営層が活用することで、保守計画の最適化やコスト削減にも寄与する。電力をはじめ各インフラ分野で導入が進む新たな保安体制である。
電気新聞2025年7月28日





