「サーモンは海で育つもの」──そんな常識を覆すのが、私たちが手がける“陸上養殖”である。これは、文字通り陸上に設置したタンクの中で魚を育てる養殖方法であり、地球温暖化や海洋汚染、資源減少といった水産業を取り巻く課題に対する有効なソリューションとして、世界的に注目されている。

陸上養殖で特に重要なのが「RAS(Recirculating Aquaculture System=閉鎖循環式養殖システム)」と呼ばれる技術だ。このシステムは、飼育水を高度にろ過・殺菌し、再び飼育タンクに戻す仕組みを持ち、極めて少ない水量で安定した魚の飼育を可能にするものだ。具体的には、次のような工程で水が循環する。
1.魚が泳ぐ飼育タンク
2.魚のふんや残餌を回収(ドラムフィルター)
3.アンモニアなど有害物質を除去(バイオフィルター)
4.水を殺菌・脱臭(オゾン処理)
5.浄化された水を再びタンクへ戻す
この循環システムに加え、九電グループが得意とするエネルギーマネジメント技術と、IoTによる遠隔監視を融合させているのが特徴だ。たとえば、飼育水の温度や酸素濃度、pH、塩分濃度などを24時間体制で監視し、異常があれば即座にフィードバック制御を行う体制が整っている。
また、餌やりにも革新的な手法を取り入れている。従来は人手で時間や量を決めて行っていた給餌を、当社では飼育水槽を泳ぐサーモンの成長具合(体長、重量)に応じてIoTを使った給餌機を使って自動化している。魚の食いつき具合をリアルタイムで監視し、最適なタイミングと量を判断。これにより、餌の無駄が減り、水質悪化の原因となる残餌も大幅に削減される。
◇年間通じ安定出荷
こうした環境制御が可能な陸上養殖の最大の利点は、年間を通じて安定出荷が可能になること。台風や高波の影響を受けることなく、一定の品質と数量で計画的に出荷できるのは、流通業界や消費者にとって大きなメリットとなる。
さらに環境への負荷が小さいという点も見逃せない。海面養殖では、ふんや餌の残りがそのまま海中に流出し、赤潮や海洋汚染の原因になることもある。一方、陸上養殖では、排水はすべて処理されてから排出されるため、自然環境への影響を最小限に抑えることができる。
◇導入リスク抑える
では、なぜ私たちは「サーモン」に着目したのか? その理由は3つある。
1.通年で安定した需要があること
サーモンは寿司・刺身・グリルなど多様な食シーンで人気があり、季節を問わず安定した需要がある。
2.短期間で成長すること
養殖のマグロは出荷まで3~4年かかるが、サーモンは1年半程度で出荷可能。これにより事業の回転率向上につながる。
3.技術的に陸上養殖との相性が良いこと
国内では未だ導入事例は少ないが、国外で陸上養殖の実績があり、水質管理や飼育条件が確立されているため、導入リスクを抑えやすい。
こうして育てられたのが、「みらいサーモン」だ。平均体重は2.5キログラム前後、鮮やかなオレンジ色で脂の乗りは控えめ、中トロのような“旨み”を持つ。味覚分析では、うま味成分(グルタミン酸)の含有量が他のサーモンよりも高いという科学的裏付けも得られている。
この陸上養殖の仕組みを支えているのは、まさに“電力会社ならでは”の総合力。技術・エネルギー・地域との連携という三位一体の取り組みによって、これまでにない水産業のかたちが生まれようとしている。
次回は、こうした仕組みが確立するまでに乗り越えてきた数々の失敗と、そのなかで得られた知見についてお話しする。
電気新聞2025年7月7日





