
第二次トランプ政権といえば、電気自動車(EV)の助成金カットを提唱し、自動車業界の「電動化に冷たい」印象を与えるが、ドライバーが不要なAV(Autonomous Vehicle=自動運転車)の振興政策には力を入れている。AVへの規制緩和を背景に、米国ではウェイモ社が営業地域を拡大する一方、テスラ社やズークス社などがAVタクシー市場に参入している。こうした電動AVの公共交通化は将来、電力需要にも影響を与えるだろう。
米国政府のAV振興策は2017年9月にNHTSA(米国道路安全局)が発行したADS2.0(自動運転システム2.0)から活発化し、20年にはAV4.0で、安全優先や効率的な市場形成などの指針を発表してきた。これらはAV開発を安全面から規制する姿勢が強かった。
これに対し、トランプ大統領が指名したショーン・P・ダフィー運輸長官は25年4月、思い切った規制緩和を盛り込む「新AVフレームワーク」を発表した。
市民団体や専門家による「安全基準と監視が甘くなった」との批判はあるものの、これにより大量の車両を運用するAVタクシー事業の採算性が上がり、米国では同分野への参入が促進された。
ウェイモ社はグーグル社のAV開発プロジェクトとして長年実証実験を続け、現在フェニックス市、サンフランシスコ市、ロサンゼルス市、マイアミ市、オースティン市などで商用ロボタクシーサービスを運営している。今後は、アトランタ市やワシントンDCに展開する。同社初の海外展開は東京で、日本交通およびGoタクシー・アプリと提携し、新宿区、渋谷区、港区、千代田区などでの試験運用を進めている。
ウェイモは現在、乗車回数25万回/週以上、100万マイルを超える運行を行っており、同社は100万回/週を達成する意欲に燃えている。10年以上にわたる公道走行データとシミュレーションを重ねて実用化した同社は、既に人間のドライバーよりも事故率が低いという実績データを強みとしている。
同社はベイエリアやフェニックスなどの都市で積極的に再生可能エネルギーを調達しており、特にサンフランシスコでは100%を達成、その二酸化炭素(CO2)削減効果は推定315トン/週と推定されている。筆者もよく利用するが、その快適さと安全性には舌を巻く。
◇監視不要も安全は
テスラ社のイーロン・マスクCEOは、テキサス州オースティン市で今年6月12日からAVタクシー・サービスを開始すると宣言していたが、やや遅れているようだ。
同社の自動運転FSD(フル・セルフ―ドライビング)のベーター・ユーザーは40万を超えており、膨大な量の実走データが集まっている。ウェイモ社は、自動運転だが万一の場合に備えて中央監視センターで人が監視している。一方、テスラのFSDロボタクシーは、こうした監視をしない野心的なアプローチを採っている。
ただ、24年10月に視界不良によるFSD関連事故(4件中1件は死亡事故)など、FSDの安全性には懸念がありNHTSAは慎重な調査を進めている。
一方、アマゾン社は20年にAVベンチャーのズークス社を買収し、同分野への参入を目指してきた。ウェイモやテスラは既存の自動車に自動運転システムを搭載した。ズークスは自動運転システムに適した車体を開発した点がユニークだ。そのためハンドルなど操縦装置もなく、車両の前後もない。どちらの方向にも走行し、狭い場所でもUターンは不要など、興味深い特徴がある。全米6都市で試験車両を走らせており、今年ベイエリアに製造工場を建設したこともあり、有料サービスが視野に入っている。
◇拡大で電力需要増
トランプ規制緩和を受け、ウェイモ社やテスラ社、ズークス社などが一斉に参入や市場拡大すると、AV市場は急成長が予想される。また、ウェイモ社はトヨタグループと提携交渉を進めるなど、将来は個人へのAV販売も広がるだろう。AV普及が進むと、電力需要にも影響が及ぶと議論されている。
従来のEVは夜間充電の需要を促進するが、AVタクシーは日中の充電需要を増加させる。特にAVタクシーの駐車・整備施設近辺では、局所的に大きな電力負荷が予想され、周辺住民への影響も懸念される。とはいえ、都市部での電力供給は逼迫しており、短期間で変電所や配電網の強化を進めることは難しい。ウェイモ社のように大量のAV車両が再生可能エネルギーに依存すると、逆に電力系統の変動性が増大し、周波数調整や電圧維持といった「新たな問題を引き起こす」との指摘もある。
設備増強やピーク需要管理、系統安定対策、充電インフラの局所偏在などは、すべて長期的な対策が必要だ。しかし、サンフランシスコを筆頭に導入都市では「AVタクシーの市場立ち上がりが見えない現状で本格的な投資計画を進める事ができない」というジレンマに陥っている。(在米エコノミスト、ピーター・スミス氏)(この項おわり)
電気新聞2025年6月23日





