ハイテク政策の一つ放送通信分野は、現在三本柱で動いている。一つはコスト削減・過剰な規制緩和・非DEI(多様性、公平性、包容性)というトランプ政策。二つ目はクラウド(含むAI=人工知能)政策、そして最後が伝統的な周波数政策だ。

 

 連邦通信委員会(FCC)のブレンダ・カー委員長は就任早々、「削除、削除そして削除」と題して不要な通信規制を民間から募集した。これは好意的に受け止められ、通信業界団体・USTelecomは約3千項目、14万語以上の規制削除を提案するなど大きな波紋をよんだ。

 一方、FCCにもDOGE(政府業務効率化局)のスタッフが派遣され、ライセンス申請処理の自動化などのコスト削減が始まった。例えば、低所得者や学校・図書館へのブロードバンド費用助成などを行うユニバーサル・サービス基金を撤廃し、年間80億ドルの予算削減も打ち出した。共和党系FCC委員は「削減した資金をStarlinkのような企業に振り向け、インフラ展開において技術中立的なアプローチを採用する」と提唱している。しかし、低所得者の子弟が図書館でインターネットを利用できなくなると反対運動が起こっているが、共和党主導の連邦議会は廃止に前向きの姿勢を示している。

 FCCがもっとも注目を浴びているのはDEI政策だろう。カー委員長はDEIによって報道内容に偏向があるとして、大手メディア(PBS、NPR、CBS、ABC、NBCUniversal、Disneyなど)への調査を開始している。これには「許認可制度を使って、ジャーナリズムの中立性を侵害する」としてメディアだけでなく、ほかのFCC委員からも批判を受けている。調査結果次第では、法廷闘争に入る可能性が高い。

 ◇英でクラウド制限

 今年に入り英国でTSA(通信セキュリティー法)が成立し、携帯基幹網やアクセス網などのネットワーク部分でパブリック・クラウドの利用を厳しく制限した。ブリティッシュ・テレコム社は、プライベート・クラウドを構築し、制御部やアクセス網を自社構内に収めている。

 この動きに、米AT&Tが「Azure Operator Nexus」を使う例や独テレフォニカがアマゾン(AWS Outposts)の例を挙げて、米国クラウド業界は反発した。AIによるネットワーク管理は性能面でも経済性でもパブリック・クラウドが良いと主張している。

 背景には、トランプ政権の関税やウクライナ政策など経済・外交面で欧州諸国の信用を失ったことがあり、米国クラウドによる市場支配への不信感が表面化した。トランプ政権は「規制による不当な市場閉鎖だ」と反発しているが、欧州の「デジタル主権主義」は収まりそうもない。大手クラウド事業者はAIで欧州市場開拓を狙っていただけに、対応に奔走している。

 ◇周波数政策は錯綜

 トランプ政権は、5Gを重要課題としてFCCの無線競売権限の復活や衛星通信ビジネスの規制緩和などに取り組んでいる。ただ、周波数政策は複雑だ。競売議論は1.3ギガヘルツから10ギガヘルツあたりだが、3ギガヘルツ下部は米軍がミサイル防衛システム「ゴールデン・ドーム」に使用しており、民間開放がないだろう。

 AT&Tは官民共有帯域CBRS(3ギガヘルツ)の移転を提案し、同帯域の5G周波数に利用することを提案しているが、CATV事業者が自社携帯網に利用している。カーFCC委員長は、帯域開放や電波の利用効率促進に積極的だが利害関係は錯綜(さくそう)しており、解決は長期に渡るだろう。

 地上波放送でFCCは、既存デジタル放送のアップグレード(ATSC3.0)を抱えている。ブロードバンドと組み合わせて地上波放送の双方向化を狙うなど野心的な内容だが、移行方法が難しい。政府が移行を義務化すれば、無料公共放送にもかかわらずテレビの買い替えやネット加入を強制することになりかねない。とはいえ、義務化しなければ既存視聴者は、費用を出してアップグレードしないだろう。

 前回のアップグレードでは、義務化と引き換えに連邦政府の助成金が視聴者に配られた。コスト削減を狙うトランプ政権は助成金に応じられないが、地上波放送業界の衰退は加速している。

 トランプ政権下での放送通信政策は、イデオロギー面で混乱を招いているものの、難しい通信法の規制緩和に積極的な姿勢を示し、その評価は錯綜している。(在米エコノミスト、ピーター・スミス氏)

電気新聞2025年6月16日