第2次トランプ政権発足時、DOGE(政府効率化局)ほど話題を集めた政策はない。その法的根拠の曖昧さや活動の不透明性、政府機関への越権とも言える強硬介入などが原因で、DOGEは現在複数の訴訟に直面している。一方的な解雇を展開し、政府機関職員だけでなく一般市民からも批判の矢面に立たされ、多くの科学技術プロジェクトが予算削減や廃止に追い込まれている。とはいえ、米連邦政府の債務増加に歯止めを掛けようとするDOGEの挑戦が重要であることも間違いない。

 

 DOGEは、連邦議会とは関係なくトランプ大統領の諮問機関として設置された。その目的は「政府官僚主義の撤廃、過度な規制削減、無駄な支出削減、連邦政府機関を再構築」と広い分野と施策を対象とする。本来アドバイスが役割だが、実際にはスタッフを政府機関に派遣し強制的な介入を繰り返したため、大きな混乱と反発を受けた。

 米国際開発省を強制的に廃止に追い込んだ事例は有名だが、そのほか国立衛生研究所の補助金削減や消費者金融保護局の機能停止、教育省の解体などが注目された。予算カットを理由に連邦政府の研究開発や高度人材育成活動は急ブレーキが掛かっている。

 例えば、教育省解体では、2025年3月に職員の半分に当たる2200名を解雇し、連邦学生援助局や公民権局など、主要部門は職員不足で活動停止、学生ローン管理や教育差別防止監視などの機能も止まった。同省が取り交わした総額8億8100万ドル(約170件)の教育・研究契約を打ち切った。DOGEの派遣チームは教育省のデータベースにアクセスし学生ローンの個人情報をAI(人工知能)で分析するなど、プライバシー侵害やデータ保全問題でも批判を浴びている。

 5月22日に連邦裁判所が「議会承認なしに教育省を事実上解体するもので、違法」との判断を下し、約1400名の即時復帰を政府に命じた。これにより教育省の解体は停止状態に陥っている。

 ◇民間受注に切替え

 DOGEの影響は教育省などだけにとどまらない。筆者の周りでも、連邦通信委員会や連邦航空局、連邦航空宇宙局などが出張もできず、国際会議や打ち合わせが滞る状況が続いている。政府系の研究開発団体は予算削減から、民間からの研究プロジェクト受注に奔走している。

 DOGEは政府支出の削減策を矢継ぎ早に実行した。しかし、その成果ははかばかしくない。

 当初の目標2兆ドル削減から1兆ドルへ、年間5千億ドルの削減と目標値を下げてきたDOGEだが、25年4月20日時点で、DOGEウェブサイト上の削減額は推定1600億ドルにとどまっている。

 英国のBBCによる分析(25年4月23日時点)では、詳細が示されているのは615億ドルに過ぎず、証拠が示されているのはわずか325億ドル。そのほか、1600億ドルの節約に使われた税金は1350億ドルという別の分析もある。

 少なくとも現時点でDOGEが予算削減に失敗したことは間違いない。支出削減よりも環境や省エネルギーなどトランプ政権が好まない政府系プロジェクトを切り捨てることに注力している。

 ◇与党も積極性欠

 最近、格付け会社ムーディーズが米国債の格付けを引き下げたように、米連邦政府の債務増加と持続可能性は危機的状況にある。

 WSJ紙の報道によれば、バイデン氏が副大統領と大統領を努めた政権下で連邦政府の支出は爆発的に上昇した。DOGEの目的は、ふたたび歳出と歳入のバランスを取り戻すことにある。その目的は、米連邦政府にとっても米国市民にとっても重要なことだ。

 見方を変えれば、連邦政府は税金で運営する米国最大の企業だ。その大企業を解体縮小し、予算カットと雇用削減を実施すれば、米国経済自体が不況に陥りかねない。

 また、現場では解雇や組織の撤廃に対する抵抗は大きく、安易な態度ではDOGEは何も進めることができない。とはいえ、プライバシーの保護や透明性の確保などを犠牲にはできない。しかも、市民受けが悪いこともあり、民主党だけでなく、共和党も支出削減には積極的ではない。

 DOGEによって、多くの研究開発プロジェクトが打ち切られ、米国の科学技術や研究開発に支障が出ることは間違いない。その一方で、政府の再編と支出削減で、長期的な財政均衡を優先させる狙いが間違っているとも言えない。ただ、DOGEの施策はあまりに稚拙で強引かつ、不透明だった。規定では26年7月4日までにDOGEは解散することとなっている。もし夏に解散すれば「成果なき混乱」だけとの評価で終わることになるだろう。(在米エコノミスト、ピーター・スミス氏)

電気新聞2025年6月9日