経済産業省が2023年6月に策定したカーボンリサイクルロードマップでは、二酸化炭素(CO2)を固定化する技術の一つに鉱物化を挙げている。石炭灰はCO2を鉱物化する特性を有し、この特性の応用が我が国のCCUS(二酸化炭素回収・貯留・利用)技術の開発推進に寄与することが期待されている。第2回ではNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託事業(JPNP16002)で実施した技術開発のうち、石炭灰へのCO2固定について紹介する。
石炭灰にCO2を固定する技術は国内外で研究開発が進んでいるが、薬品の添加や高温・高圧下でのCO2固定を必要とする手法がほとんどである。既往技術では、炭酸塩化反応の効率を高めるために大きなエネルギーが必要となることから、固定量を超えるCO2が排出される場合が多い。電力中央研究所では、石炭火力発電所に隣接する海面埋立処分場を活用し、時間を要してもエネルギー投入量の少ないCO2固定・再利用技術の開発を進めている。
◇約7日で反応完了
石炭灰に固定されるCO2量は、カルシウムやマグネシウムなどのアルカリ成分の含有量など、灰の性状によって増減する。常温・常圧下では、CO2濃度によって炭酸塩化の反応速度は異なるものの、最終的に石炭灰に固定されるCO2量はほぼ同じであり、模擬排ガス(発電所排ガスを想定した5~10%のCO2)を用いた場合、炭酸塩化反応は1週間程度で完了する。電力中央研究所が有する450種以上の灰性状の情報と実験データを照らし合せたところ、加温・加圧などの多量のエネルギー投入が無くとも、石炭灰1トン当たり平均約6.3キログラムのCO2を固定する能力を有することが示された。

発電所から処分場への石炭灰の輸送、発電所排ガスを用いたCO2固定処理、炭酸塩化した灰の搬出までに至るCO2固定作業=図について、全ての工程に投入されるエネルギー量をCO2排出量に換算し、前述で算定したCO2固定量と比較することでライフサイクルCO2を試算した。CO2固定作業に必要となるエネルギーのCO2排出量は固定量の5分の1程度に留まり、処分場を活用したCO2固定技術は石炭灰1トン当たり約4.9キログラムのCO2が削減されることがライフサイクルCO2の試算により明らかとなった。これは処分場1ヘクタール当たり約640トンのCO2削減に寄与することとなり、発電プラント内CO2除去技術などと本技術を組み合わせることによって、火力発電所の有効な脱炭素化への貢献が期待できる。

◇処分場安定に寄与
石炭灰にCO2を固定することにより、処分場保有水のpHが中性域まで低下し、処分場の早期安定化への寄与が期待できる。また、炭酸塩化した石炭灰を有効利用することにより、火力発電所におけるカーボンリサイクルへの寄与が拡大するだけでなく、処分場の残余容量の拡大への貢献が可能である。さらに、大気中のCO2を固定する場合においても石炭灰は発電所排ガスとほぼ同量のCO2が固定できることから、より一層省エネルギーなCO2固定技術への発展が期待できる。これらの利点が最大限発揮できるよう、石炭灰処分場を活用したCO2固定に係る技術開発の取り組みを継続していく。
◇用語解説
◆CCUS 「Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage」を略したもので、CO2を分離・回収・貯留した後に利用する技術。
◆炭酸塩化 CO2とアルカリ土類金属等が反応し、炭酸塩を生成する過程。例えば、生石灰や消石灰がCO2と反応することで炭酸カルシウムが生じる。
◆ライフサイクルCO2(LCCO2) 製品や建築物等の製造から廃棄までの全ての工程で排出されるCO2総量を算出した指標。ここでは、CO2を石炭灰に固定した炭酸塩化灰の製造から搬出までの工程で排出されるCO2総量と石炭灰に固定されたCO2との差を算出した。
電気新聞2025年4月14日