「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国へのインフラ輸出に向けて、日本の電力会社やメーカー、商社などによる調査・実証事業が続々と始まる。経済産業省の補助事業の一環。東京電力パワーグリッド(PG)や関西電力、Jパワー(電源開発)、九電工をはじめ、6月末に36件が採択された。日本の知見や技術力を生かし、再生可能エネルギーの導入促進やエネルギーの最適利用につなげるプロジェクトが重要な一角を占める。

 ◇越の工業団地で制御

 東電PGは、ベトナム北部沿岸ハイフォン市の「DEEP C工業団地」で、エネルギーマネジメントの事業可能性調査を実施する。東電PGは、ベルギー系インフラ開発会社と折半出資する「Deep C Green Energy」の現地子会社を通じて、同工業団地で配電、小売事業を展開している。今回の調査は、ベトナムの電力使用量の約半分を占める製造業の電力不足解消と脱炭素化を進めるのが狙い。

 具体的には、現地の太陽光・風力発電実績の調査や今後の電力需要の想定、現地工場へのヒアリングによるデマンドレスポンス(DR)の検討を行う。また、グリーン水素需要や太陽光発電、蓄電池の最適容量、資機材価格の調査などを行う予定。

 ◇離島間の連系線整備

 関西電力と関西電力送配電はインドネシアの島しょ間を結ぶ連系線の整備・開発で支援する。パイロットプロジェクトの実施時期や事業規模などは決まっていないが、近く事業化可能性調査を始める。

 インドネシアは2060年に温室効果ガス排出実質ゼロを目指している。「ネットゼロ」の達成へ、離島での再生可能エネルギー電源の導入を加速させる計画で、その実現には島しょ間を結ぶ海底送電線など連系線の整備が鍵を握る。だが、インドネシア国有電力会社(PLN)単独では資金面でのハードルが高いことから、整備・開発にまで至っていない。

 そのため、関電や関西送配電をはじめ日本のエネルギー事業者が技術面などでインドネシアに協力する。日本政府は財政面で日系企業を支援する。

 ◇石炭火力GTCC化

 Jパワーはインドネシアの既設石炭火力発電所のガスコンバインドサイクル(GTCC)化に向けて実現性調査(FS)に取り組む。既設設備を一部流用しながら、最新鋭のGTCCへとリプレースする方法を検討。天然ガスから水素への将来的な燃料転換に向けた検証なども行う。FSは複数プラントを対象に実施し、GTCC化するプラントを決める。調査期間は8月から約半年を予定する。

 ◇EMSで再エネ普及

 有人離島が約2千カ所に上るインドネシアでは、脱炭素化に向けて離島に再生可能エネルギーを積極的に導入していくことが必要だ。九電工は、太陽光発電など再エネと蓄電池と組み合わせ、発電した電力を無駄なく安定供給するシステム「九電工EMS(エネルギー・マネジメント・システム)」で、再エネのベース電源化と低コスト化を両立する事業の可能性を調査する。

 九電工EMSは、天候に左右される再エネからの送電を安定的に制御可能で、災害時の非常用電力を常時確保するなど防災面でも強みがある。国内では、佐賀県小城市役所が2022年2月に初めて導入した。

 ◇DACや蓄電池調査

 川崎重工業は、マレーシアなど3カ国でDAC(ダイレクト・エア・キャプチャー)事業の実現可能性を調査するほか、パラオでも疑似的な慣性機能を持った蓄電池の導入効果を検証する。東洋エンジニアリングはインド国営電力と協業。グリーンメタノールを製造し、日本に輸出する事業について調査する。

 住友商事は再エネ資源が豊富なコロンビアで、水素の地産地消の事業性評価を実施する。併せて大規模製造・輸出の可能性も探る。双日はインドネシアの工業団地内にあるデータセンターや企業向けに再エネ電力、省エネサービス、脱炭素燃料を提供するビジネスの展開を目指し、調査を実施する。

 豊田通商は、ブラジルでバイオメタンの輸送手段、ウズベキスタンで電力系統の安定化対策を検討する。

電気新聞2024年7月8日