輸送用の木箱に入れられ、出荷を待つジャイロトロン

◆プラズマを加熱

 量子科学技術研究開発機構(QST)とキヤノン電子管デバイスは10日、国際熱核融合実験炉(ITER)向けに製造したジャイロトロンの実機を公開した。QST那珂フュージョン科学技術研究所(茨城県那珂市)内の付属実験棟で、担当者がジャイロトロンの機能や役割などを説明した。

 ジャイロトロンは、ITERをはじめとした磁場閉じ込め方式の核融合炉で、反応の条件となる数億度のプラズマ状態をつくり出すために必要な加熱装置。電子レンジでも利用されるマイクロ波を高出力で発生させ、加熱を行う。高さ約3メートルのジャイロトロン1基当たりの出力は、一般的な電子レンジ2千台分に当たる千キロワット。周波数は、約70倍の170ギガヘルツとなる。ITERでは専用棟に設置され、ジャイロトロンから出力されたマイクロ波が100メートル以上の伝送設備を通ってプラズマを加熱する。

◆量産化も視野に

 QSTとキヤノン電子管デバイスはジャイロトロンの共同開発に当たり、要素技術の研究を重ねてきた。マイクロ波を出力する「出力窓」と呼ばれる部分については、マイクロ波透過時の発熱で割れてしまうといった課題を、人工ダイヤモンドを使った製品を開発することで解決。発熱が小さく、熱伝導が良いダイヤモンド窓を使うことで高出力を実現した。

 マイクロ波放射部の最適化にも取り組んだ。放射部内でマイクロ波が散乱し、損失や発熱が発生していた事象に対し、シミュレーション技術などを活用して内面形状を最適化することで、これらの発生を抑えた。

 発電実証を行う原型炉などITER以降を見据え、3つの周波数による加熱が可能なジャイロトロンの開発にも成功している。

 ITERは25年を予定する運転開始時期の見直しを進めているが、国内外のスタートアップの発電実証目標や各国の原型炉関連計画は30年代を掲げるものも多い。そのため、ジャイロトロンの需要は将来的に増加していく見通しだ。

 公開に合わせて開いた説明会で、キヤノン電子管デバイスの豊田一郎・電力管技術部長は、今後の需要拡大に伴う量産化を見据え、「エックス線管などで培った生産技術を導入しながら、安定して信頼性の高いジャイロトロンを生産していきたい」と話した。

 QSTのITERプロジェクト部RF加熱開発グループの梶原健グループリーダーは、原型炉などへの適用に向けて、さらなる高性能化の必要性を指摘。「周波数を上げても、高い効率を保つことができる製品の設計などに取り組んでいきたい」と抱負を述べた。

◆メモ

 QSTとキヤノン電子管デバイスは1990年代からITER向けジャイロトロン技術の共同開発に取り組んできた。ITERに設置される24基のうち8基を日本が担当。2016年から製造を開始し、21年には全8基の製造を終えた。

 その後試験を進め、性能を確認できたものから順次、現地に空輸。今年3月末には全基の試験を完了した。既に6基は納入済みで、今回公開したのは最後の2基。これらも今年12月には空輸され、現地で据え付けなどが行われる予定だ。

電気新聞2024年5月16日