自由化と絡み注目を集めた東電の火力入札。2014年、東京・内幸町の本店で行われた説明会には多くの参加者が集まった
自由化と絡み注目を集めた東電の火力入札。2014年、東京・内幸町の本店で行われた説明会には多くの参加者が集まった

 国内の発電事業が大きな転換点を迎えている。2016年4月の電力小売り全面自由化以降、安価なベース電源として再注目された石炭火力は温暖化対策の観点から逆風に見舞われ、新規開発が停滞気味だ。脚光を浴びる再生可能エネルギーもFIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)からの出口戦略がみえない。競争環境下で安定供給を支える発電事業を誰がどう担うのか。岐路に立つプレーヤーの戦略を追った。
 

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 「石炭火力は横須賀で当面打ち止めかもしれない」。国内最大の市場である首都圏向け電源開発を巡り、金融関係者の間で最近、こんな見立てがささやかれるようになった。環境規制やESG(環境、社会、企業統治)投資の広がりを背景とし、石炭火力の新規開発に強烈な逆風が吹く。
 

数年で事業環境が激変。石炭火力の開発進展は半数

 
 わずか数年前、状況は全く違った。2011年3月11日の東日本大震災後の安全規制強化により、国内の原子力発電所が軒並み停止する中、政府は電力小売り全面自由化を決めた。競争を勝ち抜くには安価なベース電源が欠かせない。必然的に石炭火力という選択肢が浮上した。

 それを象徴するのが経済産業省のガイドラインに基づき、東京電力が2014~15年度に実施した火力電源入札だ。600万キロワットの募集に対し10件の応募があり、このうち9件が石炭火力だった。当時の「シェールブーム」は見向きもされず、燃料費が安い石炭での応募が集中した。

 その後の経緯はどうか。9件の詳細は未公表だが、本紙の取材によると、既存発電所の契約更新に伴う応札1件を除く8件中、開発が具体化したのは横須賀を含め半数の4件にとどまる。他の4件のうち2件は昨年末までに中止を発表し、残り2件も視界不良だ。

 競争促進や供給力確保に向けて、石炭火力が再評価された震災直後から一転、温暖化対策の観点から逆風が強まった。経済産業省は小売り側ではエネルギー供給構造高度化法、発電側は省エネルギー法の枠組みによる規制強化を進め、環境省も環境影響評価(環境アセス)手続きを通じ締め付けを強めた。

 将来の稼働率が読めないことも事業者にとって痛手だ。石炭火力は燃料費こそ安いが、初期投資がかさむ。再生可能エネの拡大や原子力の再稼働、電力需要の減少などが重なり、計画時に見込んだ稼働率を維持できなくなれば固定費の回収に支障を来す。

 ある電力幹部は「石炭火力が経済性で勝負できるのはアワー(発電電力量)を稼げるから。稼働率が読めなければ投資判断は難しい」と明かす。資金調達でも個別案件の採算性が厳密に問われるプロジェクトファイナンスを中心にハードルが高まってきた。訴訟リスクも無視できない要因になりつつある。
 

ガス火力も、原子力の再稼働が進むと競争力が課題に

 
 相対的に進んでいるガス火力もリスクを抱える。石炭より初期投資が少なく、稼働率が多少落ちても事業性を確保しやすいものの、原子力の再稼働が進めば競争力低下が避けられない。石炭と同じく将来の稼働率をどう読むかが難しい課題になっている。

 再生可能エネが拡大する中で、稼働率をどう維持するかという問題には既存発電所も頭を悩ませる。業界関係者の間で昨今、ガス火力に関するある提携が注目を集めている。

 電力会社が自社LNG(液化天然ガス)基地にガス会社の燃料を受け入れ、発電所で電気に転換し、ガス会社に卸す新種のトーリングだ。発電所を「電気の生産設備」と割り切り、業種の壁を越え運用するこうした提携が実現すること自体、国内の発電事業が直面する環境の厳しさを物語る。新規開発を巡っても複数の事業者が提携し、リスクを分散化する動きが加速してきた。

 カーボンプライシング(炭素価格付け)の制度議論や容量市場の価格水準も、発電事業の将来に関わる重要な要素だが、まだ詳細がみえてこない。変数が多すぎ、「根源的には大規模電源を持つことがよいのかというところまで考えざるを得ない」とすらいわれるリスクの時代に、ビジネスモデルをどう構築するか。暗中模索が始まった。

電気新聞2019年1月15日

※「変化を追う」第4部は現在、連載中です。続きは本紙または電子版でお読みください。