拡大の一途をたどる再エネ設備。発電した電気を十分に活用するため、政府は連系線増強へと舵を切った

◆長期方針、「使い方」意識

 「これだけ暑かったのになぜ需要が戻ってこないのか」
 一般送配電事業者各社が昨年夏の電力需給を振り返るうち、こんな疑問が経営幹部の間で頻繁に口にされた。再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、需給予測が次第に難しくなっていることを差し引いても、例年になく“読み”が難しかったとの声が上がる。

 昨年夏は東京エリアに限って節電要請が出され、東京都心では8月の31日間全て真夏日を記録した。需給逼迫に陥った前年より「暑い夏」だったにもかかわらず、需要は伸び悩んだ。同エリアの最大電力は5525万キロワット(7月18日)と、前年同時期に比べ400万キロワット程度減った。

 東京電力パワーグリッド(PG)の岡本浩副社長は「節電やテレワーク率の減少、産業用など生産活動の低下といった複合的な要因が考えられる」と指摘する。特に7月の家庭用は電力需要が増加する夕方から夜にかけ、前年同月比で3.9%落ち込んだ。

 他エリアでもおおむね傾向は同様だ。7~8月を通じ、10年に1度の猛暑を想定した最大電力(H1)を上回ったのは8月の北海道のみだった。

 各社の経営幹部からは「東日本大震災以降の構造的な変化があるのではないか」といった指摘もある。2011年の東日本大震災以降、節電が一定程度定着し、コロナ禍で生産活動は減退した。電気の使い方そのものが変わってきたとの見立てだ。電気料金の上昇も需要を押し下げた可能性がある。需要電力から太陽光、風力の出力を除いた「残余需要」を正確に割り出すことは難しいが、住宅用太陽光の増加が一因との見方もある。

 ◇供給力の脆弱さ

 需要が低水準で推移したからといって、突発的な気温変化に対応する供給力の脆弱さは解消されないままだ。東京エリアでは9月19日、この時期としては異例の高気温予報が出され、東電PGは追加対策を実施した。電源I’(イチダッシュ)の発動や電源IIの増出力運転など供給力を積み増すとともに、電源・流通設備の作業調整を行うことで、需給逼迫を回避した。

 夏冬の高需要期ごとに需給を懸念する事態が続く一方、国は地域間連系線を増強し、再エネの主力電源化を推し進める施策を打ち出した。昨年2月に公表した「GX実現に向けた基本方針」で、30年度までに連系線の容量を過去10年に比べ8倍に増強する方針を表明。北海道~東北~東京間の日本海側への敷設が有力な海底直流送電がその目玉だ。

 電力広域的運営推進機関(広域機関)も昨年3月末、「広域連系系統のマスタープラン(広域系統長期方針)」を策定。各地の連系線の増強規模を費用便益評価とともに示したものだ。報道でも取り上げられたが、費用総額の「6兆~7兆円」という数字が大きくクローズアップされた。

 再エネの導入量とともに、需要を大きく左右するのが新技術の動向だ。各地でデータセンターの建設計画が持ち上がるほか、北海道や九州では経済産業省が主導し、「オールジャパン」体制で半導体工場の誘致を進める。広域機関は専門家を集め、40、50年断面の長期需給シナリオをつくる作業も始めた。

 ◇設備だけでは…

 マスタープランは50年頃の電力系統のあるべき姿を示した前例のないものだ。ただ、策定を担った広域機関の検討会の専門家や一般送配電事業者の幹部は計画自体の意義は認めつつ、国に釘を刺すことも忘れない。「政治的パフォーマンスに終わっては意味がなく、設備をつくることだけに腐心しては将来を見誤る。需要をどう動かすかの議論がもっと必要ではないか」

 国は再エネ拡大を念頭に送配電設備の増強へと舵を切ったが、施策が供給側の視点に偏りすぎているとの指摘がつきまとう。将来を見通すには並行して需要面の手当てが欠かせない。50年の長期を見据え、送配電事業には変容が迫られる。各社を取材し、現状と課題を探った。(稻本登史彦)

 ◇次回以降は3面に掲載します

電気新聞2024年1月18日