トランプ米大統領が石炭火力と原子力発電の救済に乗り出す考えを示している。現地時間1日(日本時間2日)、エネルギー省(DOE)に発電所の早期廃止を食い止める緊急措置案を示すよう指示した。2001年のカリフォルニア電力危機時に発動した法律を用い、系統運用者に両電源の電力を2年間買い取らせる内容の草案が流出している。エネルギー安全保障や電力系統の強靱性(レジリエンス)を確保するという理由だが、市場経済を重視する米国内では「電力市場への介入だ」との批判も出ている。
 
◇強靭性を確保
 
 天然ガス価格の低下と再生可能エネルギーの普及拡大で卸電力市場の価格が下落を続けたため、米国の石炭火力と原子力の採算は悪化している。石炭火力は環境規制の厳格化も一因だ。国内の石炭火力の設備容量は約3億キロワット、原子力は約1億キロワットあるが、運転期間満了前に閉鎖を決める発電所も増えた。DOEによると、石炭火力は20年までに1270万キロワット、原子力は720万キロワットの廃止計画がある。02~16年の累計では石炭火力5900万キロワット、原子力466万キロワットが廃止された。

 政権が両電源の救済に乗り出す予兆は昨秋からあった。DOEは昨年9月、ハリケーンなどの災害時も電力系統の安定性、強靱性を確保する策として、燃料備蓄量の要件を満たす石炭火力や原子力は、卸電力市場で十分なコスト回収を認める規則を作るよう、連邦エネルギー規制委員会(FERC)に提案した。ただ、今年1月にFERCは「現状の価格メカニズムが不公正という証明がない」と提案を拒否。規制当局に「ふられた」形となった。

 トランプ大統領の今回の指示は、FERCの頭越しに行ったものだ。出回った緊急措置案の草案は、米ソ冷戦中の1950年に制定された防衛生産法と、連邦動力法202条を実施の根拠にしている。

 防衛生産法は、特定の資源の生産量増加を命じる権限などを大統領に与えるもの。カリフォルニア電力危機の際に、電力会社への発電燃料の販売を優先させるために発動した例がある。連邦動力法202条は、自然災害などの緊急時に発電所の稼働を継続する命令権をDOE長官に与えるものだ。
 
◇業界反発招く
 
 草案は、容量メカニズムで両電源を予備力として抱え続ける選択肢も盛り込んでいる。果たして草案通りの緊急措置案が示されるか判然としないが、一連の政権の姿勢は、利害が絡む業界の反発も招いている。再生可能エネや天然ガスの業界団体は「特定電源の優遇につながる」と法律の発動に抗議している。

 卸電力市場を運営する系統運用者に両電源の電力を買い取らせる草案の中身には、市場介入を許すとの批判がある。米国は自由市場を信奉する考えが根強いが、一方でFERCはベースロード電源のレジリエンス価値自体は認め、一部の系統運用者は電源の価値を卸電力市場の価格体系に反映する検討を進めている。その中での「市場の役割を否定する指示」(米国の政策に詳しい有識者)は、物議を醸しそうだ。

 現状が法律の発動が必要な緊急事態に当たるかも議論を呼びそうだ。管轄地域の原子力容量比率が高い系統運用者のPJMは、閉鎖が計画通り進んでも系統の信頼性に影響はないと分析している。

 トランプ大統領は石炭産業の再興を公約に掲げており、有識者からは「今秋の中間選挙で支持を集めるためのパフォーマンスでは」との観測も出ている。

電気新聞2018年6月5日