ロスアトムが開発した世界初の船舶型原子力発電所「アカデミック・ロモノソフ」
ロスアトムが開発した世界初の船舶型原子力発電所「アカデミック・ロモノソフ」

 ロシアの国営原子力企業ロスアトムはこのほど、世界初となる船舶型原子力発電所「アカデミック・ロモノソフ」の船体をタグボートで引っ張って航行する「曳航(えいこう)」の作業を開始した。今回は核燃料を装荷するため、船体を建造していた国営企業「統一造船会社」のサンクトペテルブルク工場から北極海沿岸の都市ムルマンスクへ曳航。作業の終了後は2019年夏にカムチャツカ半島の北に位置するチュクチ自治管区へ再び移動させて発電を開始する計画だ。
 
◇燃料装荷段階へ
 
 アカデミック・ロモノソフはロスアトムグループが07年に建造を開始。当初は09年頃に完成する予定だったが、資金不足などで建造計画がたびたび遅延していた。今回ついに燃料装荷のステップへ進むこととなる。当初はサンクトペテルブルクで装荷する予定だったが安全性を懸念する北欧諸国に配慮。北極圏に移動した上で核燃料を装荷する計画に変更したとの報道もある。

 船舶型原子力発電所には原子力船向け小型原子炉「KLT―40」の改良機2基を搭載。電気出力7万キロワットと毎時500万キロカロリーの熱供給能力を持つ。動力機関を持たないため、移動する際はタグボートに引っ張られながら航行する。

 発電した電力は主に工場や港湾設備、洋上ガス・石油生産設備へ供給することを想定。津波やその他の自然災害リスクに対して十分な安全マージンを備えて設計してあるという。

 チュクチ自治管区に設置した後は、老朽化が進んだビリビノ熱併給原子力発電所(1万2千キロワット×4基)と、チャウンスカヤ地熱発電所(3万4500キロワット)を代替する電源として稼働。世界で最も北に位置する原子力発電所になるという。

 ロシアが現段階で船舶型原子炉をどのように活用するのかは定かではない。ただ07年の開発当初は様々な活用方法を考えていた。極東地域の独立型電源として利用するほか、原子力発電所の建設費を拠出できない諸国へ貸し出す“レンタル原子炉”といった使い方も視野に入れていた。

 相手国にレンタルした場合、稼働状況に合わせて料金を徴収。契約期間が終われば再び海上移動させてロシアに戻すか、別の需要地へ赴くといった運用形態を考えていた。

 船舶型原子炉は電力供給だけでなく、地域冷暖房の熱源や海水淡水化の電源としても利用できる。出力が7万キロワットあるため、海水淡水化に用いれば1日当たり10万立方メートルほどの淡水を生み出せる。飲料水の少ない中東やアフリカ地域から需要が見込めそうだ。
 
◇外交カードに?
 
 ロシアの原子力行政関係者は開発当初、船舶型原子炉の設計を標準化して量産する方針を示していた。「平和利用に徹する」とも強調し、自国だけでなく諸外国にも売り込むかレンタルする考えだった。

 レンタル契約を結べば初期投資せずに原子力を導入できるため、開発途上国には利点が見込める。だが“船舶”ゆえの危険性も潜む。レンタルした相手国との交渉で折り合いがつかない場合、ロシアは船舶型原子炉を自国へ連れ戻す手段に打って出る可能性もあるからだ。電力の供給手段を絶つことになるため、船舶型原子炉はロシアにとって外交カードの一つになり得る。

 船舶型原子炉を極東地域の独立型電源にとどめておくのか。諸外国にレンタルする考えも持ち続けているのか。船舶型原子炉の活用方法にも関心が集まりそうだ。

電気新聞2018年5月7日