「事業者が粛々と運営を進めた成果」
岸田文雄首相が昨年7月に指示した「今冬の原子力発電所最大9基の稼働」が実現した。今月12日に関西電力大飯発電所3号機の定期検査が終了し、営業運転を開始。9基が同時期に稼働する状況になった。各原子力事業者が、計画通りの定検遂行や安全・安定運転の継続の努力が実ったといえる。一方、国が前面に立って今夏以降の再稼働を目指すとされたのは「原子炉設置変更許可済みの7基」だが、特定重大事故等対処施設(特重施設)完成待ちの関電高浜発電所1、2号機と、安全対策工事中の東北電力女川原子力発電所2号機を除き、再稼働時期はいまだ不透明だ。
大飯3号機の営業運転復帰で、再稼働済みの10基のうち、定検中の九州電力玄海原子力発電所4号機以外の9基が稼働状態となった。2月中旬に九州電力川内原子力発電所1号機が定検入りするまで9基体制が続く見込み。冬の高需要期を支える供給力として、大きな役割を果たしている。
結果的に岸田首相の指示が実現したわけだが、電力関係者からは「各社が粛々と計画通りの発電所運営を進めた結果。国が何かしてくれたということはない」といった声も聞こえる。
エネルギー安全保障を確保
昨年8月のGX実行会議で政府は今夏以降、さらに設置変更許可済みの7基の再稼働を進めることで、計17基の稼働体制を構築すると提示。安定供給の維持に加え、化石燃料輸入による国富流出の回避やエネルギー安全保障の確保を目指す方針だ。
このうち高浜1、2号機が特重施設完成後の今年6、7月に順次並列する予定。女川2号機は安全対策工事を経て24年2月の発電再開を見込む。
このほか、中国電力島根原子力発電所2号機は23年度内の安全対策工事完了を予定する。再稼働に向け、原子力規制委員会による設計・工事計画認可(設工認)審査への対応が焦点になる。ここまでの4基は再稼働への地元同意プロセスが既に完了している。
残る東京電力柏崎刈羽発電所6、7号機や日本原子力発電東海第二発電所については、地元同意がまだ完了していない。さらに柏崎刈羽は核物質防護上の不備で核燃料を移動することが禁じられており、規制委が禁止命令を解除しないと稼働できない。6号機については設工認審査も終えていない。
地元同意へ理解促進に期待
柏崎刈羽の核燃料移動禁止命令解除の是非は規制委次第だが、地元同意に向けた理解促進に向けては、まさしく国の役割が期待されるところ。原子力の正常化による来夏以降の安定供給確保へ、「掛け声」だけではなく具体的な取り組みが求められる局面になりそうだ。
電気新聞2023年1月17日