首都圏向け大型火力発電所開発の先行きに不透明感が増している。東京電力の火力電源入札を契機として石炭火力の開発計画が次々浮上したが、環境規制や系統制約といった問題に直面し、実現が危ぶまれるものが少なくない。比較的堅調だったLNG(液化天然ガス)火力開発も、系統制約が壁となって計画が停滞する懸念が出てきた。電源リプレースで生じる系統の空きに対して、公平なアクセスを求める現行ルールも、事業の予見性を下げる要因になっている。
東電向け落札案件のうち、新規案件は中止。その他案件も明暗
首都圏市場への電力販売を見据えた火力の開発計画が相次ぎ浮上したきっかけは、分社化前の東電小売部門が2014~15年度に実施した計600万キロワットの火力電源入札だ。石炭9件、LNG1件の計10件・453万キロワットが応札し、反響の大きさが注目された。
ただ、結果は厳しく、東電が設定した上限価格をクリアして落札できたのは石炭5件・145万キロワットのみ。このうち、1件は既存発電所の東電との契約更新に伴う応札、3件は東電が2012年度に実施した火力入札落札者の再応札で、純粋な新規案件は1件にとどまった。
さらにその1件、約20万キロワット分を落札していた東燃ゼネラル石油(現JXTGホールディングス)が2017年3月、関西電力グループと千葉県で計画していた石炭火力の建設中止を表明した。
落札を逃した4件の石炭火力は明暗が分かれた感がある。一定の進捗があったのは、東電が計画し中部電力との合弁会社JERAが承継した横須賀火力発電所の更新と、中国電力とJFEスチールが千葉県で計画している新規建設の2件。
残りは関電グループと丸紅が秋田県で計画する新規建設と、東電が福島県で出資する共同火力の増設だ。ただ、どちらも東北から首都圏に電気を送る系統増強コストなどが課題で、一筋縄では進まないというのが関係者共通の見立てになっている。
この他にも、入札に参加しなかった出光興産、九州電力、東京ガスが千葉で計画する新規建設の進捗が注目されている。
国内最大の電力消費地向けでありながら開発が停滞する背景には、系統制約に加えて、省エネルギー法見直しなどの環境規制強化に対する事業者側の懸念がある。再生可能エネルギーの増加と需要縮小が稼働率を押し下げるリスクも高まっている。
堅調LNG火力開発にも変調の兆し
石炭火力が逆風に見舞われる中、堅調とされるのがLNG火力開発だ。神戸製鋼所が栃木県で計画する新規建設、JERAが千葉県で計画する姉崎火力発電所のリプレースは順調とみる向きが多い。石油資源開発、三井物産などが福島で計画する新規建設も首都圏向けだ。
一方、変調の兆しも出てきた。東京ガスがJXTGエネルギーと検討していた川崎天然ガス発電所の増設計画は、系統対策コスト上振れなどを理由に7月に事業化検討中止を発表した。
目下注目を集めるのはJXTGと東電フュエル&パワー(F&P)が水面下で検討してきた川崎市内の建設計画の行方だ。関係者によると、経年火力の減出力などが見込めるエリアに新発電所を建てることで、系統制約を軽減する構想だったが、これが発電所のリプレースに該当するかどうかという論点が浮上した。
現行ルールは出力10万キロワット以上の電源を建て替える際、系統連系希望者を公募するよう求めており、手続きに一定の時間がかかる。首都圏向け火力開発の進捗は、電力小売市場への参入・拡大を目指す各陣営の戦略にも影響を及ぼしかねない。
電気新聞2017年12月28日