2017年11月1日から電気新聞最終面でスタートした小説「目撃」は、日常に犯罪が忍び込むサスペンスミステリーです。

 主人公は電気の検針員、戸田奈津実。検針エリアで発生した殺人事件の後、奈津実は何者かにつけ狙われる感覚に襲われます。「業務の途中で、殺人事件の重要な現場を目撃したかもしれない」。現場で捜査に当たる「見立て屋」ことベテラン刑事の穂積亮右(りょうすけ)は、奈津実の協力を得ながら事件の真相に迫ります。

 作者の西村健氏は、東京大学から労働省(現厚生労働省)に入省した後、フリーライターとなり、1996年の「ビンゴ」で作家デビュー。その後、ノンフィクションやエンターテインメント小説を精力的に発表し、2012年「地の底のヤマ」で第33回吉川英治文学新人賞を受賞。緻密な取材と豊かな構想力で、娯楽作品から社会派まで幅広いジャンルの作品を生み出しています。

 連載開始から2カ月。これまでのあらすじを紹介します。

挿絵:agoera
挿絵:agoera

 

 女児を持つシングルマザーの戸田奈津実は、電気の検針員として働き始めた。日に何百もの顧客を回って、軒下のメーターから電気の使用量を読み取り、料金を計算する仕事は体力も要るし、一筆書きのように街を効率よく歩いて回るノウハウも必要。何よりたくさんの数字を扱うから正確さが求められる。苦労しながらも先輩のアドバイスを受け、何とか一人前として認められるようになった。娘を幼稚園にあずけながら、日に日に仕事に慣れていく。

 そんな奈津実が担当する静かな住宅街で、殺人事件が起きる。殺されたのは運送会社を一代で築いた地元の名士、笠木素生(もとお)の妻、登志子。資産家の婦人として「お高く」とまるどころか、民生委員を務めたり、町のボランティアに率先して取り組むなど、気さくで社交的な人柄だった。恨みを買うような覚えはない。

 そんな登志子がなぜ殺されたのか。それは不運としか言いようがない。ボランティア活動に出かけたところ、忘れ物に気づいた登志子は自宅に戻る。だが、そこに「賊」が潜んでいた。空き巣を狙った犯人が、ふいに帰宅した家人と鉢合わせ。その結果、慌てた犯人が口封じの刺殺に及んだと捜査本部は当たりをつける。

 現場で捜査に当たる一匹オオカミの刑事、穂積亮右の見立ては、やや異なる。殺し方の落ち着きぶりからして、犯人は鉢合わせに慌てるような人物ではない。入念に犯行を計画し、予期せぬ家人との遭遇もはじめから織り込んでいた。もし、遭遇した時は、何もためらわずに殺したはずだと。

 捜査に靴をすり減らす穂積。その穂積を訪ねたのが奈津実だった。「あの殺人事件を目撃した“らしい”」と穂積に告げる。「目撃しました」と自信を持っては言えないが、殺人のあった時刻、検針中の彼女は現場付近にいた。何かを目撃した“らしい”証拠に事件以降、「誰かに監視されている気がしてならない」と、奈津実は身の危険を訴える。調べに応じながら、奈津実は登志子との面識があったことも明かす。警察は彼女の身辺を守ることを約束し、奈津実もまた事件解明に惜しまず協力することを誓う。

 奈津実は事件の決定的な証拠を知ってしまったのか。そして謎の人物、諏訪部武市とは――。

 
 2018年1月5日からの展開をお楽しみに!