「脱原子力」苦渋の決断?

 
 ドイツ政府は5日、国内で稼働中の原子力発電所3基のうち2基について、今年末に迎える運転期限以降も運転可能な状態を維持すると発表した。今冬の電力供給の安定性について検証した結果、需給逼迫に陥る可能性を「現時点では完全に排除できない」として、2基を予備電源として来年4月中旬まで維持することにした。ハーベック経済・気候保護相は「原子力発電は今後も高リスクの技術。全面的な寿命延長は正当化できない」などとして、閉鎖延期は一時的措置と強調。脱原子力を強硬に進めてきたドイツにとっては苦渋の決断といえそうだ。

 延期されるのは、バイエルン州のイザール原子力発電所2号機(PWR、148万5千キロワット)と、バーデン・ビュルテンベルク州のネッカーベストハイム2号機(同、140万キロワット)の2基。年末以降、系統には接続せず、その他の対策を講じても電力需給が逼迫した場合のみ稼働させる方針だという。

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 ドイツは、2002年に32年までの脱原子力を決定。11年には東京電力福島第一原子力発電所事故を受け、脱原子力の完了を22年末に早めている。

 21年9月の総選挙を受けて誕生した現在の連立政権は、第1党の社会民主党に緑の党、自由民主党を加えた3党で構成。脱原子力の堅持が連立協定に明記された。

 国内に残る原子炉が3基となった22年2月、ロシアがウクライナ侵攻を開始。これを受け独政府は3月に3基の運転延長を検討したが、エネルギー供給にもたらす効果は限定的だとして「運転延長を推奨しない」と結論づけていた。

 その後、ロシアからの天然ガス供給減少が続く中、政権内からも運転延長の必要性が叫ばれるようになると、ショルツ首相は7月、様々な条件下での供給安定性を精査する「ストレステスト」の再実施を決定。その結果、わずかな期間とはいえ、電力供給が危機的な状況に陥る可能性が否定できないとして、予備電源として2基の閉鎖延期を決定した。

 欧州のエネルギー情勢に詳しい関係者は以前から、運転延長する場合もごく短期間に限った形になると予想しており、約4カ月の閉鎖延期は事前の見通しに沿ったものといえる。緑の党出身のハーベック経済・気候保護相は「原子力法で規定されている原子力の段階的廃止を譲ることはない」としているが、来年以降、電力需給が大きく改善する確約はない。「脱原子力」の大国がその信条を維持できるのか。不透明な情勢は続きそうだ。
 

◇東京大学公共政策大学院・有馬純特任教授の話/選択肢を自ら狭め

 
 ドイツの選択を一言で言えば、背に腹は代えられない状況になったということだ。停止からの方針変更は、ハーベック経済・気候保護相の所属する「緑の党」の党内からも抵抗があったと思うが、ドイツ国内はエネルギー大手ユニパーなどが経営危機に陥っている。脱原子力にこだわった結果、エネルギーの選択肢を減らして自らの首を絞めた格好だ。

 「来年4月」とする期限にも苦しい台所事情が見えてくる。使用できる期限を長期にすれば反対意見も増えるので、まずは4月としたのだろう。ただ、来春のロシア、ウクライナ情勢を見て稼働できる期間を延長する可能性もあるのではないか。(談)

電気新聞 2022年9月7日