7月に着工した湖北応城CAES設備の完成予想図

湖北省に実証装置建設、非燃焼で世界最大規模

 
 中国で圧縮空気エネルギー貯蔵(CAES)装置の開発が活発化している。中国能源建設と国家電網は7月に、内陸の湖北省応城市でCAES実証装置の建設を開始した。現地報道によると蓄エネルギー容量は150万キロワット時で、非燃焼方式では世界一の規模という。出力は30万キロワットと揚水発電所並みで、変換効率も世界一としている。中国国内では再生可能エネルギーの導入拡大を背景に、揚水発電所とともに開発が活発化しており、これ以外にも計画が相次ぐ見通しだ。(海老 宏亮)

 基本的にCAES装置は、電力余剰時にポンプで圧縮した空気をタンクなどに送り込み貯蔵。不足時に空気を取り出して回転発電機に用いる構造だ。世界的に再エネ導入が拡大する中、系統安定確保のための調整力として関心が高まっている。
 

設備コスト低く、分単位対応も

 
 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2017年にまとめた資料によると、地中式CAESは揚水、水素化と並ぶ100万キロワット時級まで対応できる数少ない蓄エネ技術とされる。分単位の需給調整にも対応し得る。サイクル効率は水素化より優れ、揚水を下回るレベル。1キロワット時当たりの設備コストが7千~1万4千円と低いことが特長だ。

 事業用で最も古くから稼働するCAES装置は、1978年に運用を開始したドイツのフントルフ発電所。出力32万1千キロワット、蓄電容量48万キロワット時と大規模だ。ただし、圧縮空気をガスタービン(GT)の燃焼に用いる「CAES―GT」という方式で、電気のピークシフトには貢献するものの、二酸化炭素(CO2)を排出する。現在、各国で検討されているのはGTを用いず、空気の膨張により発電機を回転させる方式が中心だ。

 今回、中国能源建設などが湖北省で着工した設備も非燃焼方式を採用している。現地報道によると総投資額は18億元(約360億円)、工期は18カ月。廃塩坑を空気貯留に活用する。エネルギー変換効率は70%、年間発電量は5億キロワット時と見込む。「単機出力、蓄電容量、効率いずれも世界一」としている。

 このほか、中国華能集団などが手掛け、やはり廃塩坑を活用する非燃焼の実証設備も5月に江蘇省常州市金壇で並列している。こちらは2020年に着工していた。出力は6万キロワット、蓄電容量は30万キロワット時。
 

容量6千万kW、桁違いの大きさ

 
 過去1年間で湖北応城を含む11のプロジェクトが立ち上がり、地点も南京や甘粛省など各地に散らばっている。とりわけ中国能源建設が江西省瑞昌市で計画する出力100万キロワット、蓄電容量6千万キロワット時という設備は桁違いの大きさだ。

 米国や英国でも進行する新設プロジェクトはあるが、これだけの規模は中国以外に見当たらない。日本ではエネルギー総合工学研究所や神戸製鋼所などがNEDO事業の一環として、独自のスクリュータービン技術を用いて高効率化を図った「空圧電池」の実証を行い、実用化へ向けた検討を行っている。

 再エネ拡大と調整力確保は世界に共通する課題。廃塩坑を多数擁するなど「地の利」を生かした中国のスピーディーな開発は、今後も注視する必要がある。

電気新聞2022年8月19日