沖合30キロ、費用は陸上式と大差なく

 
 沸騰水型軽水炉(BWR)ベースの浮体式原子力発電の検討が国内で進んでいる。円筒形の浮体構造物に原子炉などの機能を搭載し、沿岸から30キロメートル程度の洋上に設置する構想だ。産業競争力懇談会(COCN)の推進テーマの一環として、産学有志による研究会が2020年度から取り組む。これまでに建造費について、陸上原子力と大差がないことなどを概算。実現へのロードマップも検討し、最速で30年代前半に初号機の試運転開始と見据えた。

 研究会のリーダーは東京電力ホールディングス(HD)の姉川尚史フェローが務める。事業者、メーカー、研究機関などの現役世代、OB有志が検討に当たる。米マサチューセッツ工科大学(MIT)が提唱する概念を参考としており、東電HDをはじめ国内で知見が蓄積するBWRを適用する。
 

リスク抑える多様な特徴

 
 構想する設備は洋上設備から海底送電線により陸上へ送電する。(1)津波の影響を小さくできる(2)崩壊熱除去のために無限の海水を動力なしに利用できる(3)陸地から離れており、事故時の住民避難が不要になる(4)工場で大部分を建造できる――ことが主な特徴だ。

 円筒状の設備で、大半は海中にあり、海上に露出するのはそのごく一部となる。常にバランスを保つ構造であるため、津波に対しても力を「受け流す」ことができる。万一、炉心冷却を制御する電気設備が水没したとしても、その際は原子炉も水没しているため海水により核燃料の崩壊熱は除去される。

 船舶型の原子力発電設備は各国で構想されるが、接岸せず陸地から数十キロメートルの海域で運用することが他とは異なる特徴だ。周囲に定住者が存在しないため非常時の住民避難や、あらかじめ避難計画を策定する必要はない。火山噴火や降灰の兆候がある際は、浮体の移動でリスクを避けられる。

 陸上に建設する原子力は、工業地帯から離れた地点に多くの建設人員や資材を供給する必要がある。また岩盤調査、掘削などの工程もいる。その点、浮体式は造船ドックなどで建造後に移動・設置するため、コスト低減や短工期化が望める。
 

110万キロワット級想定

 
 21年度のCOCNの活動では、110万キロワット級プラントを想定し、陸上と浮体式でほぼ共通する原子炉やタービンなどを除いてコストを比較。差異点である陸上原子力の土木・建屋部分の費用は世界原子力協会(WNA)のデータなどから825億~1375億円とした。一方、浮体式原子力の浮体部分は浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備(FPSO)を参考に390億~560億円程度と算定。これに海底送電線30キロメートルの建設費304億~475億円を加えてもほぼ同等となる。

 また、規制の整備から建造、試運転に至るまでの工程を踏まえてロードマップを検討。米国で整備されている設計認証を活用する場合は本格運転開始までに約17年、日本の現状の規制の場合は約14.5年を要すると評価している。

電気新聞2022年8月12日