支払う電気代は「公金」
新電力の撤退を受け、割高な最終保障供給への契約変更を余儀なくされた自治体が訴訟に踏み切るケースが九州で相次いでいる。福岡県大牟田市と宮崎県日向市はそれぞれ、電力小売事業から撤退した新電力を相手取り損害賠償請求訴訟を起こす。撤退した新電力に対する訴訟が全国で起こる可能性もあるが、既に新電力が経営体力を奪われている状況から自治体が勝訴しても損害賠償を回収できるか不透明との見方もある。
大牟田市と日向市が契約を結んでいたのは広島市の新電力、ウエスト電力。大牟田市は2021年10月~22年9月まで庁舎や学校向けに電力供給を受ける契約を結んでいた。日向市は22年1月~12月の1年間、学校など16施設の電力を調達するとしていた。だが、同社は電力市場価格の高騰などを受け、電力小売事業からの撤退を3月に決定。大牟田市と日向市はそれぞれ、九州電力送配電の最終保障供給を受けている状況だ。
大牟田市は予定していた電気料金と九州送配電へ支払う料金との差額として、5月分の約816万円を求める訴訟を福岡地裁大牟田支部に起こす。今後は9月までの差額を順次追加し、最終的に約5千万円を請求する見通し。市によると、同社は違約金を支払う意向を示す一方、損害賠償を免除するよう求めたが市は受け入れなかった。市の担当者は「(電気代に使用するのが)公金である以上、適正な手段を取らざるを得ない」と話した。
日向市も同社に電気代の増額分を求めるため、宮崎地裁に7月にも提訴する。24日、開会中の市議会定例会で議案が可決された。市は5月~12月までの増額分として、約2500万円の損害賠償を求める。違約金は4月分の電気料金と相殺したとしている。
勝訴でも回収は不可能か
訴訟の行方を見通すのは難しそうだ。ある法曹関係者は、一般論として「(新電力が)法的責任を負うかどうかは契約内容次第となる。原則として、契約期間中に一方的に契約を破棄することはできないため、新電力が損害賠償責任を負う可能性がある」とする。
だが、契約に中途解約条項が設けられている場合は「一定の手続きさえ果たせば、中途解約可能ということになる」とも指摘。「違約金がある場合、(新電力が)違約金を払えばそれ以上の責任は負わないことになる」(同法曹関係者)
新電力の事業撤退は九州だけの問題ではないため、今後自治体が同様の訴訟に踏み切るケースが増えてもおかしくはない。ただ、同じ法曹関係者は「(小売事業からの撤退を決めた)新電力には体力が無い場合が多く、勝訴したとしても、結局は回収不能となる可能性も高いように思う。そうすると、需要家としても訴訟の提起に踏み切ることを躊躇する可能性もある」との見方を示した。
ある自治体関係者は「(撤退した新電力への)訴訟を検討する自治体は他にもあるようだ」と話す。電力小売自由化を機に、安価な電力を求める動きが官民を問わず広がってきた。今回の事態は、電力というインフラの供給者を、入札による価格中心で競わせてきた調達の在り方も問われているといえそうだ。
電気新聞2022年6月27日