都市ガス小売り全面自由化で期待された新電力の参入が進んでいない。ガスの調達や保安で参入障壁が高く、自社で体制を構築するのが難しいのが主因だ。関西ほど大手同士の競争が激しくない関東では「必ずしもガスが必要ではない」と様子見の姿勢も目立つ。

 イーレックスの本名均社長は「ガス参入を本格的に検討したい」と意欲を示す。昨年秋頃から事業化調査を続けているが「年度内は難しい。来年4月から始められれば」と準備に時間をかけている。電気で多くの代理店と協業しており、販売体制の構築に調整が必要なためだ。ガスの調達は「自前では困難」とし、東京電力エナジーパートナー(EP)と日本瓦斯(ニチガス)の合弁会社から協力を得る方向で検討中だ。

 東急パワーサプライ(東京都世田谷区)の村井健二社長は、「すぐ始めたくても準備ができていない」と実情を話す。ガスの調達や保安で協業するため、「多くの事業者と接触している」ものの、選定に時間がかかっている。

 同社を駆り立てるのは、独自に行ったアンケート調査結果だ。電気の契約を切り替えない消費者の7割は「ガスと一緒に選びたい」と回答。こうした消費者の背中を押すには、電気とガスのセット販売が必要と判断した。

 意欲があっても即座に始めにくいガス事業に対し、多くの新電力は様子見の姿勢だ。ソフトバンクは販売店の繁忙感が高まることを懸念する。電気とガスのスイッチング(供給者変更)には検針票が必要な上に、顧客が記入ミスをすると確認に手間がかかる。

 SBパワー(東京都港区、馬場一社長)の中野明彦取締役は「ガスの申し込みまで受け付ければ労力は2倍に増える。最後はこの問題に行き着く」と話す。ある新電力幹部は「訪問営業ならその場で検針票を探してもらえるが、店舗で受け付ける場合はそうはいかない」と理解を示す。

 代理店や取次という形で関西に参入したKDDIとジュピターテレコム(JCOM、東京都千代田区、井村公彦社長)。他エリアへの進出は「ガスが必要な競争環境になっていない」と慎重だ。特に関東では、ガスを巡る大手同士の競争が関西ほど激しくなっていないことが大きい。

 JCOMの小森智幸エネルギー事業推進部長は大阪ガスと提携した理由について「競合相手のケイ・オプティコムはガスも扱っている。劣後しないサービスが必要だった」と説明する。

 あるベンチャー系新電力幹部は「電気とガスのセット割を提供する事業者に顧客を奪われるかもしれないが、できないものは仕方がない。違う部分で取り返せばいいだけ」と割り切る。ガス事業に対する多くの新電力の本音を代弁しているといえそうだ。


電気新聞2017年11月13日付