価格算定の複雑化課題

 
 “独自燃調”とも呼ばれる「電源調達調整費」を導入する新電力が増えている。この費用は卸電力取引市場からの調達コストを電気代に反映する仕組み。市場価格がエリアごとに設定した基準値を上回れば顧客に追加請求し、下回れば利益を還元する。卸電力取引市場のボラティリティー(変動性)が高まる中、電源調達調整費を導入することで、経営の安定化につなげる狙いだ。(旭 泰世)

 新電力の調達コストは主に卸電力市場価格に連動しているが、多くの新電力は燃料費に連動する旧一般電気事業者の燃調費調整制度をそのまま採用してきた。旧一電と燃調額がそろっていれば、需要家は各プランの基本料金と従量料金を比較するだけで、どのプランが最も安いか判断できる。新電力も自社のプランが旧一電よりどのくらい安いのかを分かりやすく訴求できる方が販売しやすかったため、旧一電と同じ燃調額を採用し続ける利点があった。

 ところが昨年10月以降、慢性的な供給力不足やウクライナ情勢による燃料費高騰などで、卸電力市場の高値が続き、風向きが変わった。

 旧一電は自社電源からの調達が主で、卸電力市場高騰の影響を比較的受けにくい。燃調制度の上限額までは一定程度、燃調額で調達コスト増を価格転嫁できていた。

 一方、卸市場調達の比率が高い新電力は、卸電力市場高騰の影響を強く受ける。燃調額だけでは調達コスト増を十分に価格転嫁できていなかった。ホープエナジーは破産し、エルピオやウエスト電力、アンビット・エナジー・ジャパンなどは小売電気事業撤退に追い込まれた。

 そこで登場したのが電源調達調整費。3~4月にはグリムスパワーやグランデータ、千葉電力などが相次いで導入を公表した。

 このうちグリムスパワーの場合、同社が「燃料費等調整額」と称する電源調達調整費は、旧一電と同じ従来の燃調額(離島ユニバーサルサービス調整額含む)に「卸電力調整額」をプラスした額となる。卸電力調整額は、「検針日の前月の1日~末における日本卸電力取引所(JEPX)のエリアプライスの平均値」から「(グリムスパワーが定める)追加調整基準単価もしくは還元調整基準単価」を差し引いた数値に、使用電力量の半分を掛け合わせて導き出す。

 仮に東京エリアの5月分(4月エリアプライス平均単価21.65円)で400キロワット時を使用した場合、燃調額に1243円(税込み)が卸電力調整額として増額される。

 新電力にとって電源調達調整費の導入は、単純な基本料金や従量料金の値上げと比べ、料金改定をせずにタイムリーに調達コストを価格転嫁できるメリットがある。一方で、価格体系が複雑になる上、各社で電源調達調整費の算定方法が統一されていないという課題がある。

 新電力が現状の販売価格を維持することは難しくなっている。そうした中で電源調達調整費が日本の需要家に受け入れられて浸透するためには、新電力各社がその仕組みについて丁寧に説明する姿勢が欠かせない。トラブルが頻発する状況は避けたい。

電気新聞2022年5月10日