欧州の温室効果ガス排出権取引価格が高騰している。12月に初めて1トン90ユーロを超えた。欧州天然ガス価格の高騰を受け石炭火力の稼働を増やした発電事業者の排出権需要が旺盛となった。ロシアからのガス供給不安や冬の寒さ次第で、100ユーロも視野に入る。炭素価格が高いほど気候変動対策が進みやすいとみる欧州委員会が高騰対策を打つ気配がないことも価格を下支えする格好だ。

 排出権価格は12月8日に一時90.75ユーロを付けた。年始の約33ユーロ(終値)から3倍弱にまで伸びた。その後、利益確定売りで24日には76ユーロ(同)まで下がった。
 

削減目標を強化

 
 欧州連合(EU)は2020年、30年の排出削減目標を05年比55%に引き上げた。施策の一つとして、21年7月に排出権取引の対象部門の削減量目標を従来の同43%減から61%減に強化した。70%削減の観測まで浮上し、排出権価格は7月に50ユーロ後半まで続伸した。

 そこから天然ガス価格の急騰が排出権価格の押し上げ材料に。12月にはロシアからのガス供給量の減少や、ウクライナ情勢の緊迫でガス価格が高まった。その影響で石炭火力や石油火力の稼働を増やした発電事業者が排出権を買い求めた。国際エネルギー機関(IEA)によると、EUの石炭火力発電量は今年、前年より2割増えるという。

 年明け後も寒気や風況、政情不安などにより価格は変動要素を多く含んで展開しそうだ。3月は各社が前年の排出量を政府に提出するため、排出権の駆け込み需要が起こる点も価格の上げ材料だ。
 

技術進展の思惑

 
 欧州委は排出権取引価格の高騰時には介入できるものの、政府収入になるため静観の構えだ。こうした姿勢の背景には、排出権価格が高まれば、二酸化炭素(CO2)回収・貯留(CCS)やグリーン水素といった環境技術の導入が進むという思惑もあるもようだ。負担の増える電力消費者からは不満が出る。発電事業者は排出権の購入費用をそのまま転嫁できるためだ。

 日本エネルギー経済研究所の清水透主任研究員は、消費者保護のため価格高騰時の制度的な担保は必要と指摘する。その上で、日本のカーボンプライシング(炭素の価格付け)議論に関し「排出権取引の制度設計にはエネルギーシステム全体の議論も不可欠」と強調し、化石燃料の市場動向や国際政治情勢を踏まえた議論が必要と説明する。

電気新聞2021年12月28日