経済産業省と国土交通省による洋上風力発電の公募選定作業が遅れている。「再生可能エネルギー海域利用法」に基づく公募手続きが進む秋田県と千葉県の計4海域は当初、10~11月頃に選定結果が公表される予定だったが、12月に入っても事業者へのヒアリングが終わっていない。事業者からは越年の可能性もささやかれている。選定プロセスの遅延は、政府が掲げる再生可能エネルギー導入目標にも影響を与えかねない。
「12月は“11月頃”に含まれる」。経産省の担当者はこう話す。加えて「公募のスケジュールは審査や評価のやり方が具体的に決まっていない中、“皮算用”で示したもの」とも説明する。
公募締め切り後の選定工程は大きく2段階ある。第1段階は事務局による参加資格の審査で、第2段階は有識者で構成された第三者委員会の評価だ。国の目算では審査に2カ月程度、評価に3カ月程度かかるとしていた。これを元に公募スケジュールは5月下旬に事業者の応札を締め切り、結果を10~11月頃に公表するとしていた。
聴取年明けか
現在は第2段階の評価中だが、12月10日時点でもヒアリングを受けていない事業者がいることが分かった。国は公募占用指針で「公募参加者に対しヒアリングを実施し、最終的な選定を行うことを基本とする」と記述している。ある公募参加者は「結果発表は早くても年内、年明けもあり得るのではないか」と話す。
国は審査状況の詳細を明らかにしていないが、関係者は「有識者の議論やスケジュール調整は事務局でコントロールしきれない」とこぼす。長崎県五島市沖の初公募案件は6月に予定通り公表されたが、応札が1件だった。これに対し今回の千葉県と秋田県の4海域には10者以上が応札しているとみられ、審査に時間がかかっているようだ。
規模が原因?
五島市沖は出力も1万6800キロワットと小規模だった。しかし今回は秋田県由利本荘市沖の最大73万キロワットをはじめ規模が大きく、評価に時間を要する原因となっている可能性がある。
1カ月程度の遅れなら事業計画への影響は軽微で済むという声は複数出ている。ある参加者は「もともと落札できるか分からず、深刻な影響はない」と話す。一方、別の参加者は「仮に越年し、いつ結果が出るか読めない状況になれば工事などに支障が出かねない」と懸念する。
洋上風力はエネルギー基本計画で再生可能エネルギー主力電源化の切り札と位置付けられた。大量導入とコスト低減が可能なためだ。現時点での導入量は1万キロワット程度。これを2030年度に570万キロワットにまで拡大する方針だ。国は開発期間の短縮を目指すが、対策を施さなければ8年程度かかるという。開発経験のない事業者が工事を順調に進められるかは未知数。洋上風力審査の遅延は、温室効果ガスの30年度46%削減の実現にも影を落とす要素だ。
来年1月中旬に見込まれる通常国会開会のタイミングが、選定結果公表の期限という見方も浮上する。公募結果が出ていなければ国会で追及されかねないためだ。経産省幹部の「年は越したくない」という焦燥感からも、年内に決められるかぎりぎりの状況がにじんでくる。
【メモ】
再生可能エネルギー海域利用法
洋上風力発電に適した海域を促進区域に定め、公募で選定した事業者に最大30年間の占用許可を与える。海域を占用する統一的なルールづくりを目的として2019年に施行された。漁業関係者などの先行利用者と調整を行う枠組みもつくられた。国が行政機関や利害関係者と協議会を設け、意見聴取をしながら促進区域を設定する。
電気新聞2021年12月15日