電力市場価格の高騰が、九州でも新電力や需要家を揺さぶり始めた。長崎県は11月末、電力調達契約を結ぶ事業者のうち1社が、営業上の都合により年度途中で契約解除を申し入れたと発表。電力市場価格の高騰が影響したようだ。冬本番を迎える中、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット市場価格は高騰リスクがくすぶる。小売電気事業者を取り巻く環境の厳しさは今後も続きそうだ。

 県に契約解除を申し入れたのは、県内でLPガス事業などを手掛けるチョープログループの子会社、長崎地域電力。県は2021年4月~22年3月末までの間、知事部局と県警施設の電力を長崎地域電力から調達する契約を結んでいた。長崎地域電力は11月、県にそれぞれの契約解除を申し入れ、双方の合意に基づいて契約解除となった。

 申し入れに至った背景には、電力の市場価格の高騰があるとみられている。県は原油価格の高騰といった社会情勢の変化も踏まえ、長崎地域電力の経営が受けた影響を重く受け止めた様子。県はやむを得ない申し入れと判断し、円満な合意に至ったとしている。

 ただ、当初予定していた期間の途中で契約解除に至ったため、県は長崎地域電力を11月26日~12月9日の2週間にわたって指名停止とし、入札への参加を制限した。

 県が発注した電力調達の契約が途中解除となるケースについて、県の担当者は「(長崎県では)初めてのケース」と指摘。他の九州各県でも同様のケースは確認できなかったとしている。今冬も電力の市場価格が高騰するリスクは依然としてあり、新電力と需要家が揺さぶられる事態は今後どこで起きてもおかしくない。だが、今回のように入札で獲得した契約期間中の電力供給を果たせず、途中で解除を申し出た姿勢には、首をかしげるエネルギー業界関係者も多い。

 長崎地域電力は電気新聞の取材に対し、今後も安定的に事業を続けるため、スポット取引に過度に依存するのではなく、常時バックアップ(BU)を活用すると回答した。

 昨冬に電力の市場価格が高騰して以降、小売電気事業を取り巻く経営環境は厳しさを増している。実際、高圧需要家との契約を更新しないことを決めた小売事業者が複数出ている。新電力にとっては、今後も電力事業に伴うリスクマネジメントなど経営手腕が問われる局面が続きそうだ。

電気新聞2021年12月20日