筆者3人が率直に語り合った(左から戸田氏、西村氏、穴山氏)

 ――戸田氏は連載で卸電力を共通インフラとする澤昭裕氏のモデルを紹介したが、このモデルへの転換を期待する?

 戸田 これから投資環境は大きく変わる。カーボンニュートラルが進展すれば電力システムは固定費中心のコスト構造となる。キロワット時価格で費用回収して設備を維持するのは難しくなる。加えて、増大するゼロカーボン電力の需要に応えるための投資は、市場メカニズムで実現できる限度を超えているように思う。こうした今までの延長線上では対応し難い環境変化への答えの一候補ではあるだろう。ただ、あのモデルだと競争的な発電市場からは後退する。

 とはいえ、同時同量のようなデリケートな制約がある電気に、競争的な市場を追求していたずらに複雑な制度にしてしまうのが良いか。同じインフラでも、水道や鉄道でみられるのはせいぜい季節別時間帯別料金、電気の20年前のものだ。電気だけいたずらに複雑なことをするより、こうした分野に労力を割いた方がいいのではないか。
 

「英独同様、見直し躊躇せず」西村氏

 
 ――制度を考える時に、規制当局や事業者はどういう立場で臨むべきか。

 西村 今後やるべきなのは英国やドイツのように間違ったと思ったら制度を大きく変えていくことだ。それに事業者も勉強してついていかねばならない。共通理解の下で制度設計に皆が参加する必要がある。

 ――電気事業をどうするべきかという「グランドデザイン」が必要になってくる。

 西村 連載では「失敗の本質」として日本軍と米軍を比較した。グランドデザインを目指して個々の改革を進めるのと、インクリメンタル(場当たり的)に破綻しないようやるのでは結果に大きな差が出る。制度全体のデザインは国民利益にかない、市場がうまく働くというところに立たないといけない。問題は誰がそれを描くか。特に電力・ガス取引監視等委員会には健全な市場の原点を見つめ、米FERC(連邦エネルギー規制委員会)並みの最高専門機関として頑張ってほしい。
 

「多様性生かし競争力を」穴山氏

 
 ――イノベーションが求められる中、電気事業を民間が担う意義をどう考えるか。

 西村 連載で「硬直的パラダイム」と表現したように、民間であっても旧来のビジネスを守ることに固執すれば、公的機関のようにならざるを得ない。顧客や市場の方を向いたイノベーション、自己改革が必要な点は新電力も一緒だ。イノベーティブな個人がいても、組織とその経営陣が変わらなければ生かされることはない。連載の最後には全員イノベーターになろうというメッセージも込めた。今は業界として岐路に立っていると思う。

 穴山 旧一電(旧一般電気事業者)でも経営トップは多様な人材を抱える各部門を刺激し、時に競争を促しながら会社全体のパフォーマンスを上げようと腐心してきた。多様性を生かしつつ、競争力をいかに発揮するかが本来の企業活力。それを引き出すのが経営の使命であり、先人たちの思いにも通じる要諦ではないか。
 

「殻に閉じこもらず挑戦」戸田氏

 
 ――最後にひとことずつ。

 戸田 いかにデジタル化が進もうとも電気は使うこと自体が目的ではなく、何かしら効用が欲しくて買う。やはりサービスの差別化が方向性となるが、電気は破滅的な価格競争になりがちでなかなか脱却できない。ただ、ガス釜から電気釜に変わったように電気をプラットフォームとしたイノベーションは起きてきた。革新的なサービスを生み出すのは電力会社以外かもしれないが、殻に閉じこもらずやっていくことが大事。同時にカーボンニュートラルを進めるなら投資ラッシュとなるが、それをどう賄うかも課題だ。

 穴山 電気の使い方は変わっても、裏方的なインフラとしての役割は変わらない。その担い手として経営を考えるなら、働く人の意欲をどう高く保つかが焦点になる。他社とのコラボレーションなどでどう質を高めて成長していくか。その成長も今後は社会的な意義を見いだせる方向に再定義されていくと思う。私企業という器でどんな価値を提供できるかを描き、誇りをもって発信することが重要だ。

 西村 自由化で電気事業が変わったとしても、需要家の期待は変わっていない。「あの会社のサービスで助かっている」と言われることが大事で、それが基本であることは旧一電も新電力も同じ。ニコラ・テスラやサミュエル・インサルは最後に破産して私財を失ったが、社会に優れたインフラを遺した。この産業に身を置く人は自らの栄達ではなく、良いものを未来に遺してほしいというのが連載に込めた思いだ。

電気新聞2021年10月20日

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